第三話「倫敦の吸血鬼 後編」6
「は?」
羽根が引きちぎれ、血が飛び散る。
振り返ったクローデットの目に映ったのは、大柄な処刑人が斧を振りかぶっている姿であった。
「レイヴン!」
「……」
玉兎の叫びに呼応するように、処刑人――レイヴンは再び斧を振り下ろす。
「くそっ、なんだこの斧……霧になれない……っ!」
咄嗟に前に飛びのいた彼女だったが、そこには霧の戒めから抜け出した玉兎が迫っていた。
「あれは『女神の銀斧』だ。もう逃げられん」
玉兎は握り潰されてように見えて、実は体を符に変え折り畳んでいた。
何本か骨を構成する符を折られているが、重要なものは残してあるし、情報は十分に引き出している。
戦闘に支障もない。
「太陽よ!」
玉兎の札が三の字を描くように並ぶ。
これ即ち八卦の乾であり、天を示す。
その三の字の中央の一本が左右に割れ、火を示す離を描いた。
「術式・天照!」
天より生み出される火、即ち太陽。
札が炎を放ち、クローデットに巻き付いた。
「ぎゃああああっ!」
吸血鬼が絶叫する。
しかし、炎の戒めは消えることは無い。
「へ、ふへへ……」
それでも、クローデットは笑う。
「教えてやるよ……」
「何! お前に力を与えたのは誰だ!」
「あんたは……やっぱりヘボ探偵さ……あたしはトッドを操ってなんか……いなかった……よ……」
「……」
「トッドーーーっ!」
吸血鬼は、愛する者の名を叫び、燃え尽きた。
不浄なる灰は大地に返る事すら許されず、風に消えた。
残されたのは金色に輝く札が一枚。
玉兎はそれを握りしめる。
傍らの処刑人は、玉兎が何を考えているかわからず、ただ頭をかいていた……。




