第三話「倫敦の吸血鬼 後編」3
玉兎は、霧の立ちこめるフリート街へ来ていた。
霧がどれほど濃かろうが、玉兎の持つ絶対方位計たる八卦羅針盤の前では意味を成さない。
さしたる苦もなく、玉兎は記念碑の前に辿り着く。
が、そのまま通り過ぎる。
進んだ先には、商店が立ち並ぶ一角が見えて来る。
そして、ある店の前で玉兎は立ち止まった。
「出て来い」
声をかけるが、反応は無い。
そのパン屋は、無人のように思えた。
「失血死事件の犯人、吸血鬼クローデット!!」
その言葉に合わせ、パン屋のドアが開くと、女主人が姿を現した。
「何だい、近所迷惑だよ」
それはほんの数時間前に会ったばかりの人物であったが、その時の木訥な服装はなりを潜め、煽情的に開いた胸元や、大きなスリットのあるスカートである。
「貴様はスウィーニー・トッドの共犯者にして奴の愛人、クローデットだな」
「スウィーニー・トッド? そんな大昔の殺人鬼の愛人? 私がそんな年に見えて?」
「吸血鬼に年など関係あるまい。トッドは、お前のために殺人を犯していたんだな?」
「探偵にしちゃヘボすぎるね。言ってる意味がわからない」
女主人の口ぶりは、シラを切るというより、からかっているようでもある。
「トッドの物語は真偽入り乱れている。トッドが絞首刑になったという話も残る。だが、共犯者の女の最後は今一つ判然としない。それもそうだろう。こうして逃げおおせているのだからな」
「ほー、へー」
「奴が首をかき切っていたのは、吸血痕を隠すため。つまり、共犯者である貴様のためだ! 最初から、貴様の存在を秘そうとしての事だった。貴様こそトッドを操る黒幕だ!」




