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第二話「倫敦の吸血鬼 前編」5

 霧の中、ヴェロニカはフリート街へ向かっていた。

 何か具体的な策があったわけではない。

 だが、玉兎の助けになりたかったのだ。

 危険だと言われても、そんな事は関係ない。

 あの貧民区で暮らしてきた彼女にとって、危険など日常にいくらでもある。

(私だって、助けになれるんだから……!)

 とは思うものの、霧が濃くなってきて視界がおぼつかない。

 そんな有様であるし、他に歩いている人の姿もない。

 王立裁判所の前に記念碑があり、その上に立つドラゴンの彫像が不気味である。

 冬の倫敦は霧が出やすいのだが、昼過ぎだというのにこう霧が広がるのは珍しい。

 この時期の倫敦では産業革命によって煙突が立ち並び、蒸気機関の煙も含め、光化学スモッグを生んだ。

 よって、日中の霧自体もなくは無い。

 だが……

「……なんかヘン。煙くない気がする……」

 不意に、嫌な予感がよぎる。

 そして、視界の端で何かが光った。

「……?」

 そちらに目を向けると、人影。

「……!?」

 霧を割いて現れたのは、大柄な男性だった。

 問題はその姿である。

 ずだ袋のようなものを被り、その正面には鉄製の不気味な仮面がはめられていた。

 ヴェロニカは知っている。

 それは、かつてゴシップ雑誌の挿絵で見た、中世の処刑人の姿――!

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