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第十一話:形成


 〜Side:???〜


 夢の中では、これが夢なのだと証明できるはずもなかった。この世界は疑心暗鬼で、何も信じる事ができない。


 廻れよ、廻れ。星すらも廻せ。

 生命の鼓動がどこまでも、永遠と限りなく無限に広がり続けるまで。

 時はまやかし、世界の支配者は閉ざされた扉の向こう側へ。

 そしてその先にあるのは、煌めく陽だまりの日常なのだと――







「主さま、……大丈夫ですか?」


 気が付くと俺は、とある學園の教室にあるプラスチック製の椅子に座っていた。それは言うまでもなく、戦ノ獄と書かれたクラスの番号。


「ここは……?」


 辺りを見渡し現状を確認する。

 ちらほらと見受けられるのは、自分を含めて七人程度の魔導師たち。


「さて? 私には分かりませんが……どうやら、"何かしらの勉学"に励む場所なのということは理解できました」


 いつもと変わらない、凛とした表情で俺を見つめてくる。機械のように洗練された顔立ちに、穢れの一つない純粋な瞳。


「そういや、あの女神。俺たちに試練を用意しているとか何とか言っていたな」


「はい。しかし、その試練のようなものは一切見当たりません」


 確かにそれっぽい物は見当たらない。ただ自分を含めた魔導師たちが教室内で話をしているだけ。


「………」


 そして俺は改めて、この教室にいる奴らに目を向けた。様々な雰囲気を放つ独特の香りや、目眩がするほどに雄々しい病みを抱えた者まで。多種多様、面白いまでにふざけた奴らがこの場所には存在している。


 ヤバそうなクラスに入れられてしまったなと、俺は一人、孤立している少女に目を向けた。紫色の髪をしたドリルのようなツインテール。


 遠目から見ても、整った顔たちと凛とした瞳は印象に残った。だからそれがいけなかったのか、まじまじとクラスメートを観察する俺に、ツインテールの少女が立ち上がる。


 そして――


「貴方、さっきからジロジロと……何? この私に喧嘩を売っているの……?」


 殺意を込めた紫色の瞳でじっと俺を睨みつける。そして例の如くに、この少女も十分に巫山戯ていた。


 鋭い目つきと、高飛車な言葉で毒を吐く少女が腕を組みながらこちらに近づいてくる。カツカツとハイヒールの音が教室内を響き渡り、藹々としていた空気は一瞬にして凍り付く。


「ああ、気に触ったなら謝る、悪かったな。――でもおまえ、気を付けた方がいい。……その性格、気持ち悪いほど浮いてるぞ?」


 ニヤリと馬鹿にした笑みを浮かべ、分かりやすいほどに子供騙しな煽りを見せた。そしてその結果は、案の定の言うべきか……


「何ですって……? ――いいわ、この私を侮辱した罪。今ここで償ってもらおうかしら」


 軽い挑発にやすやすと乗っかってくれる馬鹿な女。


「気の強い女は嫌いじゃない……だが、喧嘩っ早い女は好きじゃないんでな――」


 周りのクラスメート達が見守る中、俺たち二人は睨み合い――戦いの火蓋は切って落とされた。




「 「 ……殺す、か―― 」 」




 刹那、教室内を蒼白い光が包み込んだ。

 両者の手には神器が顕象され、煌々とした稲妻が迸る。


 対する少女の手の掌には木製の柄に皮ひもをよじり合わせ、その先に鉄線で皮ひもをつけた形状をしている鞭――クヌートをお手玉のように遊ばせていた。


「何よそのヘンテコな剣は、子供のオモチャかしら?」


 そう言ってクスクスと口元を隠し嗤う少女。


 まあ、そうだろう。見る人によってはそう見えるのかもしれない。だがこの剣を、俺の相棒を馬鹿にすることは万死に値する。ゆえにおまえの命は今ここで――


「おまえがそう思うのなら、そうなんだろうよ。おまえの中ではな――それが総てだ」


 さあ、散らしてやろう。

 涙と罪の裁きを卿ら這い寄り甦らん。


「……あらそう、それは残念。それじゃあ私は、貴方の言葉通り勝手に思っているわ――」


 ああ、好きにしろ。

 俺は何も言わんし、応える気にもならないから。


「ところで貴方、名前は何て言うのかしら。私、殺した人の名前は自分のお墓まで持っていくつもりなの。……是非貴方の名前も教えて欲しいわ――そうすれば私が貴方の生き証人になってあげる」


 なんだよそれ、余計なお世話だ。というか俺はおまえなんか殺されるほど弱くない。死ぬのはおまえだ変則ツインテール。


「黙れよ、おまえ何かに名乗る名前無い。一人で勝手にオナニーしてろよクソ女」


 そうして、俺は一歩先に踏み込んだ。

 地面が抉れる程の脚力で、少女の懐に潜り込む。


「……いちいちムカつく男。それと私には――”無碌エニナ”ってちゃんとした名前があるの」


 しかし、その攻撃は見事に返されてしまった。絡み付いたエニナの鞭がヘルの刀身を拘束しており、互いに一歩も譲らない状況。ジリジリと鞭と剣が拮抗する、それは神器同士の睨み合い。


 その刹那――


『……ッ!? 主さま、離れて下さい!』


 全身の血が冷えわたり、動悸が高まったのを感じた。背筋をつららで撫でられたような悪寒が走る。


「――ッ!」


 一体なんだコレは、身体が重い。まるで無数の荊に足を踏み込んでしまったかのような凄まじい衝撃に襲われた。


「あら、まあ? 私の棘が刺さっちゃったのね? それはそれは可哀想に――」


「ぐッ、そ……!? 何だよ、これ……?」


 頭が痛い。骨が痛い。皮膚が痛い。血管が痛い。神経が痛い。……そしてこの身体、余すことなく全てが痛い。


 痛みでどうかしてしまいそうだ。これは、ただの掠り傷程度で済まされるレベルではない。直接神経を撫でるかのような程良い激痛。絶対に死なせはしない、だけれど生かしもしない……言うなれば、これは拷問に等しい悪魔の所業。


 適度に傷口を開き、皮膚に優しく毒を塗りたくる。それは人一人を簡単に壊すことのできる狂気のクスリ。


「一度掴んだ者は絶対に離さない。それが私の異能力――【狂気マッド血薔薇ブラッディローゼス】よ。さて……貴方の狂度はどれくらいかしらね?」


 たった一度の掠り傷。平気だろうと思ったが最期、それは致命傷に成り得る最高の一手でもあった。ゆえに、このときの俺は限りなく瀕死に近いといっても過言ではないだろう。


 だがしかし、その相手が普通の人間だった場合だ。改めて言うようだが、俺は――柊狩羅という存在は普通の人間なのか。


 否、普通とは程遠い世界の住人だ。


 無から有を生み出すことができ、逆もまた然り。有から無に還すことだって今の俺には可能なはず。


 それ故に――


「ちょっと待て。一つ聞きたい。これは"毒"なのか?」


 起死回生。もとい、


「ええ、そうよ? 貴方を嬲り殺すための、狂気の毒……」


 絶対逆転のチャンスは必ず巡って来るものなのだと、


「……そうか。これが毒だと言うのならば――」


 俺にはその能力、――()()()()()()()


 なぜならそれは、次に紡ぐ言葉がすべてを物語っているのだから。




『オン・ガルダヤ・ソワカ――』




 それは身体の内側から溢れ出す三昧耶形。

 約束事、契約、そしてサマヤから転じた言葉。どの象徴物を顕現するかによって予め取り決められていたこと。それは、仏の本誓。即ち衆生を救済するために起こした誓願を示したもので……


『食吐悲苦鳥――【盲ノ打(メクラノウチ)()迦楼羅焔(カルラエン)】』


 その能力をたった一言で、簡潔に表すのならば。ただ単純に頭が悪かった。何も考えずに、ひたすら博打に耽る馬鹿の所業。


 迦楼羅とは即ち――降魔や病除、延命、防蛇毒。また、祈雨と止風雨の利益。


 不動明王背後の炎は迦楼羅天の吐く炎。

 それは、迦楼羅天そのものの姿でもあった。


「何よコレ、馬鹿じゃないの……ッ!?」


 その瞬間、初めてエニナの顔が歪む。今まで行ってきた戦闘すべてが、ひっくり返される。


 確実に相手を追い殺るために、外から順に埋めていき、逃げ場をなくすよう慎重に駒を動かしていたと言うのに……いったいこれは何だ? 


 柊狩羅という男は一度受けた勝負を放棄するような人間ではないのだと、たった数分の付き合いでも感じてしまうくらいに、この男の人間性は自ずと理解できたしまった。


 だがしかし、いくらなんでも"これ"はないだろう? チェック寸前のチェス盤を突然の何事もなかったかのようにひっくり返される。それに対して、怒りや焦り。そう言った感情を一旦無視して考えてみると、エニナは純粋にこの男の能力を恐れていた。


 ―――盲打ち。

 その本質は、ねらいを定めないでむやみに打つことにある。


 では、むやみに打つとはいったいどういう事なのか? 


 簡単に説明すると、この能力は――現在、過去、そして未来。時間軸や世界線。それらすべてを超えてしまうものでもあった。


 柊狩羅という人間が起こしたイベントは過去や未来、それと別の時間や世界にも影響が出てしまうといった、極めて特異な資質を持ち合わせている。


 しかし、この能力は柊狩羅一人では絶対に使用することは不可能。なぜなら、彼にはその能力に伴った"格"を供えていないのだから。


 言うなれば仮り染めで、限界を超えた根性。ただ単純に、ゴリ押して己が渇望を流出しているに違いない。


 では、その彼がチカラを使える理由として後押しをする存在が神器――ヘルヘイム。


 彼の唯一無二の神器であり、最高のパートナー、そして、利害の一致した使い、使われる仲間。


 ヘルヘイムの"神器としての渇望"は、『真っ当な人間として生を歩みたい』そして『このくそったれた世界を壊すひとの刃になりたい』といったものであり。


 その渇望を成就するためには、相手が何だろうが見下さないし、見上げたりもしない。個という存在を容認するためだけに前を見据えているのだから。


 そのために、相手を利用することに対しての悪感情は持ち合わせていない。なにせこの少女にとって、相手を利用するなどというのはごく普通、自然に当たり前のこと。


 それ故に――


『主さま。貴方はいったい何て素晴らしい人なのでしょうか……ヘルは嬉しくて、ついつい身体が火照ってしまいます』


 興奮を隠せない少女の暴走は、面白いほどに理解できてしまった。


「落ち着け、後で慰めてやるから――」


 その言葉は自分自身にも言い聞かせており。


『それなら、今日は昨日よりもっと激しくお願いしますね?』


 ああ、なんて淫乱な少女なんだ。

 本当におまえ、最高のパートナーだよ。


「相分かった。おまえの期待に応えられるよう精一杯頑張るよ」


 そうして、俺は今一度神器を構え直す。その切っ先をエニナの喉元に合わせて――


「これで終わりだ。中々に楽しかったぞ、無碌。出会い方によって、おまえとなら友達になれたかもな――」


 エニナの息を飲む声が聞こえてくるのも束の間。その刹那に一閃。焔を纏う紅色の光が教室内に木霊した。

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