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【打ち切り】クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-  作者: よぎそーと
九章

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83話 回想:会社/探索/地図

 内部はいつも通りのヨドミだった。

 いつも通りという言葉がどれほど適切かは分からない。

 作りはやはり大なり小なり違う。

 なのだが、漂う雰囲気は今までのものと同じだった。

 おぞましく、不気味で、嫌悪感をおぼえる。

 コンクリート造りがテナントビルらしいが、そんな外見の違いでは覆せないものがあった。

 そして、窓のそとからは青白い光。

 月夜とも違う、薄く青く照らす不可思議な明かりがかすかに視界を提供してくれる。

 まだ午前中だというのに、決して明るくはない。

 現実の方の時間の流れと切り離されてるのだろう。

 いつやって来ても、ユガミはこの青白い光で照らされている。

 いったいどこからと思って外を見ても、光源ははっきりしない。

 太陽や星、月のように光をもたらす存在があるわけではない。

 空そのものが光ってると言うしかない。

 懐中電灯をつけたノボルが、その中を何も言わずに進んでいく。

 空室のテナントのような部屋から外に出て、配管が剥き出しの共有スペースに。

 長い年月放置されて荒れたようなその中へと踏み込んでいく。

 靴底ごしに表面が粗く削られた床の感触が伝わってくる。

 ビルらしく、共有スペースはそれほど広くはなく、すぐにエレベーターと階段が見えてくる。

「……動かないか」

 念のためにエレベーターのボタンを押していたノボルだが、すぐにそちらは諦めたようだった。

 ため息を吐いて階段へと向かう。

 そしてすぐにもう一度ため息を吐いた。

「こりゃあ……」

 吹き抜け構造の階段は上と下が結構見渡せた。

 上も下も数階ほどの高さがあった。

 もともと十階建てだったのでそれはさしておかしくはない。

 なのだが、階段での上下する手間を考えると気が滅入ってしまう。

 ユガミの居所を探す為にここを往復する羽目になるのだから。

「ま、がんばって行こう」

 既にして疲れ切った声をあげるノボルに、カズヤもマキも気のない返事をあげた。



 手間は予想より大きなものだった。

 とりあえず上から片付けようと一階あがった三人は、やはりさして広くもない共有スペースに出た。

 そこから扉を開いて室内に入り、奥にある扉を見つける。

 その先には別の部屋があり、やはり奥の方に扉があった。

 部屋が連なってる構造になってるようだった。

 当然ながら、現実の方のビルにこれだけの広さはない。

 このヨドミもまた、他の所と同じように現実にはありえない構造をとってるようだった。

 更にその先の扉を開いてその先へ。

 踏み込んだ先も部屋になっていたが、そこにある扉の先は共有スペースになっていた。

 この階に入ってきた時の場所かと思ったがそうではないようだった。

 少しばかり作りが違っている。

 エレベーターもあるにはあったが、当然ながら動かない。

 やむなくまた階段で移動する事になる。

 今度は下に。

 先ほどと同じ所に出る……とは思わなかった。

 部屋の繋がりからしてそうならないのは分かってる。

 そもそも共有スペースを含めた部屋の向きが違う。

 入り口のあった部屋とは逆方向に伸びている。

 同じ階ではあるかもしれないが、構造的に繋がりはなかった。

 その共有スペースに接してる部屋を覗くと、奥に扉が見える。

「なんか、面倒そう」

 マキの声が呆れてる。

 ノボルも辟易としていた。

「でも、行かないと」

 そう言うカズヤも、かなりやる気が減少していた。

 階段で行ける各部屋の構造や、部屋同士の繋がり。

 それらがどのように結合してるのか分からないが、かなり面倒な構造になってるのは予想が出来る。

 思った以上に広くて面倒な所なのかもと思い、気が滅入っていく。

 何より、化け物がいる。

 開いた部屋にいたもの共がカズヤ達へと向かってくる。

「まったく……」

 刀を握りながらノボルが歩いていく。

「本当に面倒だな」



 化け物を倒してから一度入り口まで戻っていく。

 複雑な構造だけに、探索するには人手が必要になる。

 仲間を引っ張ってこなければならなかった。

 同時に、迷わないように、ビニール紐も用意する。

 入り口からこれをのばし、帰りで迷わないようにするためだ。

 他にも、ポストイットを侵入した部屋の入り口に貼り付けて目印になるようにする。

 簡単ながら階層と部屋の繋がりが分かるように地図も作っていく。

 少しずつだがそれができあがっていく。

 白紙のコピー用紙に書き込まれていく構造が、ヨドミの全体図をはっきりとさせていく。

『化け物のいる方に』という基本をおさえながら進んでいくので踏み入れてない場所も出てくる。

 それでもかなりの広さが判明していく。

 ある程度進んで化け物と遭遇しなかったら探索を打ち切る。

 それからまだ踏み込んでない場所へと向かう。

 人数を増やしておいて正解だった。

 もしいつも通りの人数だったら、探索が進む事も無かっただろう。

 進んで化け物がいなかったら戻り、遭遇した方に向かうのを繰り返す。

 いつもより広い場所だけに人数がいなければどうしようもなかった。

 それでも、ユガミを探りあてるには至らない。

 いつもの事だが、時間を使って地道に探す事になる。

 化け物の巣窟とはいえ、ユガミにおける行動の大半は移動である。

 探索と休憩。

 これらが中心となる。

 その中で化け物と遭遇すれば戦闘になるし、そうでなければ移動を続ける。

 戦うのも手間がかかるし疲れる。

 なのだが移動もこれはこれで地味に消耗していく。

 戦闘ほど激しく動かないだけに気づきにくいという問題もある。

 時折休んでみて、体が意外なほど疲れてる事に気づく事もある。

 気づかずに何十分も歩き続ける事もあるのだから当然である。

 薄明かりの中をよりはっきりとした光で照らしながら進むのも神経を使う。

 それでも少しずつ先へと進んでいく。



 ちょっとした違いは偶然のように見つかった。

「あれ?」

 共有スペースに出る度にエレベーターのボタンを押していたノボルが驚く。

「なによ?」

 振り向いたマキがノボルの見てる方向を見て同じように驚く。

 無言でそちらを見たカズヤも同様だった。

 三人が見つめる先、エレベーターのボタンと階数表示が作動している。

 上がりと下りの両方を押したらしく、上と下の矢印が両方とも光っている。

 エレベーターの位置を知らせる階数表示も同じだ。

「何これ」

 驚いてるマキの前で、上と下からやってくるエレベーターが三人のいる階に近づいてくる。

「下がれ」

 自らも後退しながらノボルが刀を構える。

 他の場所では全く動かなかったエレベーターが動いてるのだ。

 警戒心が最大限になっていく。

 全員、自分の武器を構えて到着を待つ。

 並んでる二つのエレベーターが二台とも同じ階に止まる。

 こんな時だが、ここが六階である事が判明した。

 エレベーターが開く。

 誰もいない。

 三人の緊張が少しばかり解れる。

 化け物でも出て来るのかと思っていたので、空っぽだった事に安心する。

 だが、いつまでも開いてるエレベーターは、別の警戒を呼び起こしていく。



「どうする?」

 集まった者達が開きっぱなしのエレベーターを前に考える。

 ここだけ動いてるエレベーター。

 開きっぱなしの扉。

 何らかの意図がそこにあるように思えてならなかった。

 乗り込めば何かが見えるかもしれない。

 しかし、罠である可能性の方が大きい。

 行くべき?

 留まるべきか?

 これが正解であるかは分からない。

 道はまだ続いてる。

 エレベーター横の階段は変わらず存在してるし、そこへ行けば更に先まで進めるだろう。

 しかし、それがユガミに至る道なのかは分からない。

 エレベーターもそれは同じなのだが、ここまで動いてなかったものがここだけ動いてるというのは気になる。

 もしかしたら、という可能性が捨てきれない。

「行ってみるか?」

 尋ねるノボルに、

「がんばって」

とマキが応えた。

「試しに一人で」

と付け加えて。

「そりゃねえよ」

 無言で答えを保留にするカズヤの前で、ノボルは大げさになげいてみせた。

 続きは20:00予定。

 誤字脱字などありましたら、メッセージお願いします。

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