81話 回想:今やるべき事
「危なかったな」
「はい……」
返事もろくに出来なかった。
化け物の襲撃からまだ数時間である。
どうにか切り抜けたが、押し寄せる化け物はちょっとした精神的な衝撃になっていた。
学校も終わって下校してる途中、ノボルと合流しても落ち着かない。
一番の理由は、今後も同じことが起こるかもしれない、と言われた事だった。
化け物も相手の居場所が分かっていれば襲撃をかけてくることがあるという。
今回のような大規模な来襲も無いことではない。
珍しいことではあるが。
あらためて自分が抜け出せないところに捕らわれたことを感じた。
駆けつけてきたノボルと仲間によって学校内の化け物は撃退できた。
事前にトランシーバーで連絡をしていたのが功を奏した。
おかげで早い段階で対応できる者達を集めることが出来た。
いくつかの助言を聞くことも出来た。
窓を開けて敵を集めるといった事も、その一つである。
敵を誘導するため、あえて隙を作ることで他の場所を手薄にする手段である。
そのおかげでカズヤはどうにか生き延びることが出来た。
急いで駆けつけてきた者達と、校舎から抜け出したところで合流することも出来た。
校舎内も含めて化け物は駆逐され、いつも通りの学校生活に戻ることも出来た。
化け物の襲来を知るのはカズヤだけであったが。
おかげで、急いで教室に戻り、何食わぬ顔をせねばならなかった。
境界が解除された瞬間に授業の途中になったのには驚いたが。
今の今まで誰もいなかった教室に他の生徒も教師もいたのは、かなりの衝撃だった。
あの騒ぎを誰も知らないというのも感じられた。
認めたくなかったが、化け物に関わることを覚えてられるのは一部の人間だけ、というのは確かなようだった。
誰も知らない、知ることも無い。
そんな中で殺されていくかもしれない。
誰にもみとられず。
『前にそういうこともあってな』
かつて言われた事を思い出す。
『境界とかヨドミで死ぬとな、誰も思い出さなくなるみたいなんだ』
存在自体がこの世から消える。
いたという事実も含めて。
最初からいなかったものとして扱われる。
それがどういうものなのか分からないが、その事を今日の一件で垣間見た気がした。
起こった出来事を知らないまま、他の者達はいつもどおりの日常を過ごしている。
そうと知らず、いつも通りに。
(冗談じゃない)
「潰しましょう」
ワゴン車の後ろに乗りながら言う。
「あんなのがこれからも襲ってくるなんて冗談じゃない。
先に潰しましょう」
考えて悩んだ。
カズヤなりにであるが、色々と思った。
「このままやられるなんて、冗談じゃない」
「それで、潰しにいくって?」
「そうです。
こっちから、あいつらを潰しにいきます。
あっちがやる気なら、こっちからやりにいきますよ」
大人しくしていても向こうが無視してくれるわけではない。
やって来るならこちらから相手をしにいく。
どうせ逃げ切れないなら、自分の満足する形にもっていきたかった。
やられっぱなしはもう嫌でもあった。
そんなのこの数年で嫌というほど味わった。
これ以上続けたいとは思わない。
その元凶にもなってるものを倒しにいくだから、ためらう事は何一つない。
怖いとは思う。
今日、襲われてあらためて思った。
あんな連中に殺されたくない、死にたくないと。
だからこそ、相手を倒さねばならなかった。
話し合いが成り立つ相手ではない。
勝手にやってきて、一方的に攻撃してくる。
もとより意思の疎通がはかれない存在だ。
どこかで折り合いをつけることも出来ない。
どちらかが生き残るまでやりあうしかない。
だからこそ相手が出てくるところを潰すしかなかった。
「それじゃ、今日もがんばっていこうか」
ノボルもカズヤの意思をくんだ。
「疲れてると思うけど、気張ってくれ」
「はい」
断るつもりはなかった。
「まあ、そんだけレベルがあがってるならどうにかなるだろ」
「そうですか……?」
そのあたりは自信は無い。
全くの無力というわけではないが、まだまだ求めるところには到達できてないように思えた。
ノボルと比べてしまうとどうしても自分の至らなさを感じてしまう。
「まあ、二人で回ればどうにかなるだろ」
「そうですね…………って、二人?」
不穏な言葉だった。
「二人って、誰と誰で?」
「俺とお前」
「え?」
「やる気があるならそれでいこう。
マキには留守番してもらって、俺らでヨドミつぶしだ」
「え……」
「おまえ位のレベルになってるなら、自分のことは守れるだろうし。
俺も遠慮なくやってける」
「いや、それは……」
何かおかしなことになっている。
「とりあえず今日まわる所はそれでいくぞ。
きついけど、修養値もいっぱい入るから」
「あの、それはそうかもしれないんですけど」
「そういうわけだから、留守番よろしくな」
「はいはい」
助手席から呆れた声があがる。
「じゃあ、本日見つかったところからいくぞ」
化け物の来襲から化け物の通った道筋が見つかっている。
それらを協力者達にたどってもらい、それらしいところを発見している。
学校への襲撃は確かに大きな危険になったが、同時に敵の出所を確かめる手段を見つけることも出来た。
既に三つほど候補地があがっている。
更にまだいくつかの場所が見つかる事が予想されていた。
「暫くは忙しいな」
「はあ……」
なんだかおかしなことになったと思いつつ、ため息が漏れた。
やる気を出したことを少し後悔する。
「お前の親父さんのほうだけど、もう少し時間もかかりそうなんでな。
まずはこの辺りを先に片付けるぞ」
調査状況を聞かされつつ、カズヤは返事をする。
父親の方がまだ時間がかかるのは残念だった。
出来れば早いうちに家族の問題を片付けたい。
しかし、手をつけられるところは限られる。
(やるしかないか)
ノボルと二人で大丈夫なのか不安であるが、今更引くわけにはいかない。
再び襲われないようにするためにも、ヨドミを破壊するしかないのだから。
「それじゃ行こうか」
到着した場所で降りたカズヤをノボルがうながす。
「出来れば、もう一つくらいは回りたいから、がんがん行くぞ」
「……お手柔らかにお願いします」
言っていたとおりにマキを残して中に入っていく。
しかしノボルは、
「そんな辛気臭いかおするなって」
と気にもしない。
「お前の家の時だって、二人でやっただろ」
「今思えばかなりの無茶ですよね」
「それでも生きて帰ってこれたんだ。
お前はあの時よりレベルは上がってるし、どうにでもなるだろ」
「だと良いですけど」
まだ楽観できないカズヤは、どうしても懐疑的になってしまう。
だが、実際にどうにかなるような気はした。
最初のときと同じというわけではない。
勝算はあの時よりも格段に大きい。
油断はしないよう、無茶もしないように気をつければどうにかなりそうだった。
「ま、どうにかなるだろ」
「どうにかしないと……ですね」
接近してくる化け物を目にしながらそんな事を言う。
「そんじゃ、やってみるか」
「はい」
臆すことなく二人は化け物に向かっていった。
続きは明日の17:00予定。
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