60話 到達 → 帰り道/その目で見る変化
(嘘……)
あまりにもあっさりとした終わりだった。
実にあっさりと、ユガミが切り裂かれた。
たいていの場合ユガミを倒すのはとてつもない手間がかかるものなのだが。
呆然としてしまうアヤナの前で、カズヤに斬られたユガミは霧散していく。
ここに来るまでもそうだが、あまりにも簡単に化け物を倒していく。
まして今回はユガミが相手だ。
こうも簡単にいくものなのかと思う。
だが、考えてる暇はない。
ヨドミの崩壊は始まっており、ここに留まってもいられない。
「おい、嬢ちゃん。
走るぞ」
カズヤに促され、慌てて動き出す。
周りはユガミが呼び出した化け物に囲まれてるが、気にしてられない。
塩をまいた所をたどってこの場から逃げ出していく。
他の化け物どもも同じように逃げだそうとしてるが、まいていた塩に阻まれる形になっている。
とはいえ、崩壊に巻き込まれるよりは外を目指そうとするのか、出入り口の周りにまいてある塩にすら踏み込んでいく。
おかげで少しずつ化け物共は出入り口へと近づいていっている。
化け物に触れた塩は接触して消えていく。
誰かが犠牲になれば、その分だけ塩の効力はなくなる。
線香も焚いてあるのだが、それらも同じだ。
数に任せて化け物は出入り口を押しきろうとしていく。
幸いにもカズヤ達はそれらが殺到するよりも早く外に出る。
背後では化け物どもが外へ向かおうと必死にもがいてるだろうが、気にせずにヨドミの入り口を目指していく。
撤退途中で化け物に出くわす事もあったが、それも大した障害になる事はなかった。
道具の全てを使い切ってしまったアヤナにはそれがありがたかった。
途中、通路が化け物で詰まってる場所もあったが、それらはカズヤとコウジが片付けていく。
難なく外へと向かっていき、入り口の職員室にまでやってくる。
途中で休みも入れたが、まだ崩壊がここまで到達するまで十分な時間があった。
ただ、アヤナにとって意外な事に、二人はすぐに外に出ようとはしない。
「ここで化け物を食い止める」
その言葉には驚くしかなかった。
確かに、外に出すよりは良いが。
そこまで余裕をもって行動してるのが信じられなかった。
「先に出ていてくれ」
そう言う二人は、全く危ういところが感じられない。
やれる事も無くなったアヤナは、それに従い素直に外に出た。
外の様子は入る前と変わらなかった。
職員室の様子も、窓の外の景色も。
変化というのもまだ訪れてないのだろう。
こうしているのもあとわずかであろうが。
あるいは見た目はさほど変わらないのかもしれない。
そこにいる者達が変わるだけで。
(どうなるんだろう)
どのようにあらわれるか分からない変化を見逃すまいと周囲に目を配る。
わずかでも兆候があればそれをとらえたかった。
しかし、そのようなものは全く感じる事はなかった。
カズヤとコウジがユガミから戻ってくる。
「終わったぞ」
と言ってるように、もう作業は終わったのだろう。
そして変化は唐突に訪れる。
周囲に変化はなかったが、窓の外の景色は変わっていた。
校庭の向こうに見えた家の並びが変わっている。
前は小さな住宅がひしめいていたと思ったのだが、それがゆったりとした作りの住宅に変わっている。
目で見える変化はそれくらいだが、確かにそこは何かが変わっていた。
二人と一緒に外に出て行くと更に別の変化も目についてくる。
廊下のところどころに工事現場に置いてあるような三角錐のコーンが置いてある。
何らかの作業中なのは見てとれた。
校舎の外に出るとそれが何なのかはっきりとした。
校門のあたりに、工事の実地を記す看板が出ている。
入る時には無かったものだ。
そこには、校舎の解体を示す旨が記されていた。
「これ…………」
どういう事なのかと思って、スマートホンを取り出す。
もしかしたらと思って市役所のホームページを表示し、関係しそうなところを探していく。
その中に、確かに該当する情報があった。
廃校した小学校を解体し、新たに公園として解放するというものが。
前はそこまで話しは進んでなかったはずだった。
しかもそれが何年も前からの計画であり、前年度の議決でようやく決まったと書いてある。
ヨドミに入る以前は、そんな事決まってなかったはずである。
決まってはいたかもしれないが、着手にまでは及んでなかった。
それがここまで進んでるのだから、かなり進展してると言えるだろう。
朽ち果てた建物をいつまでも放置するよりは良いのかもしれない。
該当する議決の中にある短い注釈に、
『他の施設への転用も考えられたが、老朽化もあり使用は難しい』
『現行の耐震基準なども満たしておらず、改修するにしても費用がかかりすぎる』
と書いてある。
そうであるならば、この元学校をこのまま残すというわけにもいかなかったのだろう。
代わりにというわけではないだろうが、公園となるこの場所に、規模は小さいながらも公民館が造られる事になっている。
会議やちょっとした集会が出来る場所だけでなく、室内競技が出来る体育館もあわせて造るとも。
そちらの方はまだ計画段階でしかないが、来年以降の議会の議題として提出される事になっている。
他にも、公園の一角には遊具などがおかれるという。
目で見える以上の変化が確かにそこに表示されていた。
あらためて周りも見渡す。
変わってるところもあれば、変わらないでいるものもある。
ただ、全体として雰囲気が良くなってるような気はした。
息苦しさは感じられない。
学校は廃校になってるのは変わらないが、そこが新しく作り直されようとしている。
用途は違えど、周囲の住人達に求められてるのは変わらない。
求められてた役割を終えたものが、別の何かに生まれ変わろうとしてるように。
「あー、あったあった」
「うわ、本当に壊すんだ」
すぐ近くであがった声に目を向ける。
高校生くらいだろうか。
アヤナと同じくらいの年頃の者達が数人集まっている。
かつての校門にたてかけられてる看板を見て、校庭へと目を向けていた。
「やっぱ無くなっちまうか」
「なんだかな」
「しゃあねえけどさ」
口々に惜しむ声があがっていく。
この学校の卒業生だろうか。
何かしら思い入れがあるのは口ぶりから分かる。
それでも、不平や不満があるというわけではない。
無くなっていくものへの哀惜はあっても、それはそれとして受け止めてるように見える。
ただ、ここであった事は忘れず、記憶として彼らの中に残ってるのだろう。
他愛のない事を良いながらも、工事が少しずつ始まっていく元学校を見つめている。
もたらされた変化の示した結果の一つが、こういった者達の姿なのかもしれなかった。
もっとも、彼らとて変化の後で発生した者達である可能性もあったが。
(こういう風に変わるんだ)
それが良い事なのかどうかは分からない。
ただ、決して悪い事というわけでもない。
そのどちらがよりよいのかはまだ分からない。
どちらも否定しきれるものではない。
それでも、どちらかを選ばねばならない。
どちらも、という選択肢はない……おそらく。
ならばどうするのか、という問いにまだ明確な答えを出せない。
もたらされた変化を見て、それでもアヤナは迷っていった。
【修養値獲得】
総額 三万二千
続きは明日の17:00予定。
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