61話 帰り道/その目で見る変化 → きっかけ
「で、どうする」
車に戻ったカズヤが声をあげる。
「あと一カ所はいけるけど。
ここで切り上げた方がいいかな」
体力も気力もまだ残ってる。
あと一カ所くらいはどうにかなる。
だが、トガビトの動向もある。
ここで引き返し、万全の状態にしておく方が良いかもしれなかった。
それが化け物どもに猶予を与えてしまう事になるかもしれなかったが。
連戦による消耗と、読めない敵の動きを秤にかけていく。
「あと一回はいけるなら、その方がいいんじゃ」
「ここで帰って休んでもいいんじゃないか」
「回復すれば、明日は三回くらいはいけるしな」
「今日踏ん張って、明日休むってのは?」
各自がそれぞれ思う所を口にしていく。
ただ結論は既に決まっている。
「その方がいいだろう」
「無理してもね」
「このあたりで切り上げよう」
全員、無理はしない方向に話しを持っていっている。
まだ前日の疲れも残ってる。
ここからもう一回行った場合、それなりの無理をする事になる。
それを強行するほどの余裕は無い。
「じゃあ、今日はここまでで」
カズヤがそう言って、作業はここで終わりとなった。
「あの、送ってもらっていいんですか?」
「かまわないよ」
車中、アヤナからの問いにカズヤはあっさりと言う。
「途中でトガビトに襲われるかもしれないし」
「それはそうですけど」
「そうなったらね。
さすがに気分が悪い」
「せっかくの美人さんですしね」
コウジがいらない補足をつける。
それに対して「コージ……」と低い声で威圧する。
「余計な事言うな」
「えー、でも、美人さんすよね。
違います?」
「そういう事を言ってるんじゃねえ」
「じゃあ、なんすか?」
「余計な事言うな、って言っただろ。
聞こえてないのか?
それとも、言ってる事が分からないくらい馬鹿なのか?」
「いや、それ酷くないっすか?」
「お前の顔と頭と性格と人格と今までとこれからに比べたら大した事ないだろ」
「うわ、それ最悪っすよ」
「これ以上悪くならないから安心しろ。
そして、生まれ変わってやりなおしてこい」
カズヤに容赦はなかった。
同乗してる他の者も頷いている。
さすがにコウジも口をつぐむ。
言われて反省してるのではなく、下手な事いうとどこまで言われるか分からないからだ。
「まあ、下心はあるけどな」
「やっぱり」
「これから協力してくれるかもしれない人間を無碍にするわけにゃいかないだろ」
偽らざる本音である。
見た目がどうこうという以前に、そちらの方が重要だった。
もちろん、相手の性格などの人間性は考慮するが。
「見た目なんかよりそっちの方が大事だ」
まずはカズヤ達の意志や考えを理解してくれるかどうか。
そちらの方が重要だった。
「いやまあ、そりゃそうでしょうけど」
「せめて邪魔しないようになってくれればいいよ」
そう言われたアヤナは、「はあ……」としか言えなかった。
「あの、本人の前で言いますか、そういう事?」
「隠し事したってしょうがねえだろ」
「それはそうかもしれないですけど」
「どうせばれるのが嘘だ。
だったら正直に言うよ」
それにしたって正直過ぎると思った。
これでは損する事が多いのではと心配してしまう。
「そんなわけだから。
出来ればそれなりに協力してもらいたいのよ」
それは協力ではなく、買収や強請の類なのではないかと思われた。
「前にも言った通りにね」
「はあ……」
何と答えて良いのか分からなくなり、曖昧な返事をするしかなかった。
「でも、協力出来るかどうかは分からないですけど」
「おう」
「一つ、聞いてもいいですか?」
駄目でもともとと問いかける。
「なに?
一つじゃなくてもいいよ。
そう言って一つで終わった事もないし」
今までの経験での話である。
「いえ、本当に一つしかないですから」
「だったらいいけど」
とはいえ、回答を拒んでるわけではない。
答えられる事なら正直に言うつもりだった。
「あの、どうしてヨドミを壊してるのかなんですけど。
そうする理由とかあるんですか」
気になったのはそこだった。
壊して変わるのはカズヤも知っている。
アヤナも先ほど目にした。
それが悪い方向に向かうものではない、とも思った。
変わった方が、少なくとも以前よりは良い状態になるのだろうという事も。
しかし、確実に良い方向に変わるという保障はない。
何がどこまで変わっていくのかは未知数だ。
周りへの影響を考えれば、やはり二の足を踏む。
躊躇わずにやるにはそれなりの覚悟や理由がなければ難しい。
そうするだけの理由があるのかと思った。
問われたカズヤは、
「まあ、色々あってね」
と言って語り出す。
「言われたんだよ。
『奥を目指せ』って」
それがカズヤがこうしている理由である。
「だいぶ昔の話になるけど」
それでも、それがきっかけになっているは確かだった。
「どういう意味なんですか?
奥って、いったい」
「俺も詳しくは知らない」
事実である。
そう言われただけなので、詳しい事は分からない。
「けど、そう言ってた。
崩壊の向こう側にあるって。
そこまで行けば何か分かるかもしれないけど」
「……誰が、ですか?」
「先輩」
「カズヤさんのですか?」
「そう。
それだけ言い残して死んだよ」
息をのむ。
それが珍しい事では無いとは、先日思い知らされたばかりである。
「だから、見てみようと思ってね。
今、こうしてるのはそういうのが理由」
「…………」
「あと、ヨドミは破壊しろってのもね」
「それも……なんですか」
「ああ」
その時の事は、カズヤの頭に今も刻まれている。
忘れられない出来事として。
(もう八年か)
初めて化け物と遭遇してからそれだけ経っていた。
先輩と初めて会った時でもある。
何とか化け物から逃げ、そこから救われた日だった。
全てがそこから始まった。
続きは明日の17:00予定。
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