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天宮の煌騎士〈ルキフェリオン〉  作者: 真先
【EpisodeⅢ. 神の迷宮】
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5. 迷宮攻略戦

 移動要塞である《パンドラ・ボックス》が造られたのは、第一次十字軍遠征の時であったと言われている。

 正十二面体ドデカヘドロン型の移動要塞は、当時の設計思想からも斬新すぎたらしく、結局一度も実戦に参加することなく退役した。

 老朽化した要塞は長らく放置されていたのだが、現在では学生騎士たちの闘技場として利用されている。


 内部を大幅に改装し、迷宮へと作り替えられた《パンドラ・ボックス》を使用して行われる競技種目が、迷宮攻略戦ダンジョンマッチである。

 十二騎士団寮の代表、六名からなるパーティーで、《パンドラ・ボックス》内の迷宮を探索。

迷宮内における他パーティーへの戦闘、妨害は自由。

 一番先に迷宮の最奥に到達したパーティーが勝利。ポイントが加算される。


 迷宮の中には様々な仕掛けが施されている。

 各所に罠や鍵付きの部屋。機械歩兵や地上から連れて来た奇形生物といったモンスターが解き放たれており、探索者達の行く手を阻む。

 同時に迷宮内には価値のある宝物などが設置されており、発見した物が所有してよい事になっている。

 大抵の場合は現金であるが、光子武器や錬光石など貴重なアイテムが配置されることもある。

 高度な戦術と駆け引きが要求される難解な競技であるが、それだけの見返りも大きいので、迷宮攻略戦ダンジョンマッチは生徒達に人気の競技種目であった。


「……と、まあ。試合、と言うよりもお祭り的要素が高い競技なんだ」


 競技内容の説明を、ジョシュア・ジョッシュはそう締めくくった。


 場所はいつもの談話室。

 メルクレア、シルフィ、ミューレの新入生三人は、休憩中のジョシュアを捕まえて迷宮攻略戦ダンジョンマッチの説明を聞き出していた。


「言って見ればボーナス・ステージみたいなもんかな。この時期はどこの騎士団寮も金欠になるからね。迷宮内の財宝は軍資金稼ぎにはもってこいのイベントだよ」

「なんかすっごい楽しそう!」


 メルクレアは、興味津々と言った様子で説明に耳を傾けていた。

 六人パーティー、ダンジョン、トラップ、モンスター、そして財宝――聞いただけでワクワクしてくる。


「でも変ね。そんなイベントがあったなんて知らなかった」

「競技の様子は一般には非公開だからね」


 ミューレの疑問に、ジョシュアが答える。


「《パンドラ・ボックス》は通信システムが遮断されているんだ。外部から通信することはできるけど、内部からは無理なんだ。客に見せられないんじゃ興行として成り立たないだろう? ここ三年、先代の総督が就任してからは開かれていなかったんだ」


 スベイレンの闘技大会は、スベイレンの経済を支える重要な資金源である。

 闘技大会で得た収益は、スベイレンの予算として使用される。

 真剣勝負を『興行』と呼ばれることに抵抗を感じないでもないが、大事な学び舎を守るためにはやむを得ない。


「それが今年になって突然、復活したと言うんだからもうみんな大騒ぎさ。おかげで秋休みが吹っ飛んじまったよ。何処の寮も、明日の試合の準備で大騒ぎ……」

「ジョシュア、遊んでいるんじゃない!」


 不満たらたらでジョシュアが愚痴っていると、ちょうどアネット副寮長が談話室の前を通りかかった。


「明日の準備に忙しいんだぞ! ホバー・ランチの使用許可を取りに港湾局に行くんじゃなかったのか!?」

「あー、はいはい。今行きますよ、っと。やれやれ、本当に人使いが荒いんだから……」


 不承不承と言った様子で、ジョシュアは腰を上げる。

 彼が立ち去る前に、聞いておかなければならない事がある。メルクレアが最後の質問をする。


「それでさ、代表パーティーのメンバーはどうやって選ぶの?」

「そりゃあ、寮長が選ぶのさ。いつも通りにね。でもまあ、エルメラ様の事だから、六人全員を選ぶようなことはしないだろうね。パーティー・リーダーを一人選んで、残りの人選はリーダーに丸投げするはずさ」


 ◇◆◇


 丁度その頃、

 寮長室ではジョシュアの予想通り、エルメラが仕事を丸投げする真っ最中であった。


「明日の試合。リドレック、あなたをパーティー・リーダーに任命します」

「……はぁ」


 執務机のエルメラに向かって、リドレック気の抜けた返事をよこす。

 明日の準備で忙しいのだろう、執務机の上には書類が散らばっている。

 書類に目を通しながらエルメラは続ける。


「パーティーの編成から迷宮の攻略方法まで、全てあなたに任せます。好きなように戦っていいわ。何か質問はある?」

「何故、僕がリーダーなのですか?」


 面倒くさがりの彼女が仕事を丸投げするのは想像できることなのだが、その相手がよりにもよって自分だとはさすがのリドレックも想像していなかった。


 こういったチーム戦の場合、いつもならばライゼがリーダーを務めるはずだ。

 監督生のライゼは指揮官としての実績も多いし、人望も厚い。

 口やかましいと言う欠点はあるものの、パーティーを率いるリーダーとして最適である。

 それに引き換え、リドレックは指揮官としての経験は皆無であり、人望などというものはかけらも持ち合わせていない。

 おおよそリーダー向きの人材では無い事はリドレック自身も自覚している。

 それがいきなり呼び出され、いきなり明日の試合でリーダーをやれと来た。

 この人選に何か裏があるのではないかと疑いを持つのは当然と言えた。


 リドレックの疑問に対するエルメラの答えは、極めて簡潔であった。


「理由なんて無いわ」

「そうですか……」


 どうやら問答は無用らしい。

 これ以上話しても無駄だと悟ったリドレックは、おとなしくリーダーを引き受けることにした。


「メンバーは誰を選んでもよろしいのですか?」

「あたしとアネット。それとジョシュアは外してちょうだい。あたし達は外からバックアップするから」

「承知しました」


 迷宮内は外部と完全に途絶されている。

 財宝や負傷者を回収するためには、《パンドラ・ボックス》の外部で待機する、バックアップが必要となる。

 つまり、エルメラ寮長は、危険な迷宮探索を他人にやらせておいて、自分は安全な場所で高みの見物を決め込むつもりらしい。


「何しろ急な開催でしょう。もう準備で大わらわなのよ。何だってこんな時期に迷宮攻略戦ダンジョンマッチを開催したのかしら。あなた、何か知らない?」

「いいえ、何も」


 即答したのが、逆にエルメラの不審を掻き立てた。

 エルメラはリドレックに向かって疑わしげな目を向ける。


「本当に? あなた、いつも総督のそばにいるのでしょう?」

「総督が何を考えているかなんて、ぼくにわかるはずがないでしょう?」

「……それもそうね」


 存外、あっさりと納得する。

 娯楽に飢えた道楽貴族は、面白そうな事ならば何でもやる。

 先日も殺人犯を連れて来て闘技会に出場させていた。

《パンドラ・ボックス》などと言うおもちゃを手に入れておきながら、何もしない方がおかしい。


「御用がお済みでしたら、僕はこれで」


 退出しようとドアを開けたその時、思い出したようにエルメラが声をかける。


「ああ、それと……」

「あの三人は、絶対にメンバーに加えません」


 振り向くことなく言い残すと、リドレックはそのまま寮長室を後にした。


「……わかっているなら、いいわ」


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