ep79:姫様とお散歩
食事からアレルゲンが除かれたことで、リュンヌ様は日に日に回復していった。
僕と【僕】は枕元にノートを置き、これまでに作った料理のレシピを書いて枕元に置いている。
記憶は共有しているので、作り方は分かる。
記録として残したくて、姫様の体調とレシピをメモしていた。
姫様が何を好まれるかを把握する意味でも、重要な記録だ。
僕が作ったものの中では、コーンポタージュスープが特にお気に召したようだ。
ウォルクリスが作ったものの中では、故郷の料理【山菜と鳥類の肉を具にした雑炊】が、お気に入りメニューとなった。
「ウォル、今日も身体の調子がいいわ。散歩に連れていって」
やがて歩けるようになった姫様は、庭園を散歩されるようになった。
何故かその付き添いに指名されるのは、護衛騎士ではなく料理人として雇われている僕だ。
「僕は構いませんが、護衛の方に寄り添って頂く方が安全ではないですか?」
「護衛は、敵が来たときに戦わなければならないもの。私を庇いながらではやりにくいわ」
指名されることを光栄に思いつつも、僕は正規の騎士ではないので一応遠慮してみる。
しかし姫様に正論で返されてしまった。
10歳とはいえさすが王族、予想されることがちょっと物騒だ。
「分かりました。では行きましょうか」
「ええ」
僕はリュンヌ様にそっと左手を差し出して、エスコートの意を示す。
リュンヌ様は躊躇いなくその手をとり、長椅子から降りた。
最近は就寝時以外は長椅子で寛ぐことが多くなっている。
「ウォル、抱っこして」
「畏まりました」
階段の手前まで来ると、リュンヌ様は幼子のように抱っこをねだる。
階段が怖いから、ではない。
彼女は、僕ができる階段パフォーマンスを期待していた。
「では、飛びますよ」
「はぁい」
僕は小柄で華奢なお姫様を抱っこして、階段の上から下へ一気に飛ぶ。
知らない人が見たらギョッとするところだが、この城の人々には見慣れた光景だ。
振り向きはするが、ああ、またやってる、という顔で眺めている人が多かった。
「ふふっ、飛んだ飛んだ~」
はしゃぐ姫様に抱きつかれながら、僕は空中で風魔法を起動する。
落下速度が緩やかになり、僕は姫様を抱いたまま階下の床にフワリと着地した。
途端に、リュンヌ様は楽しそうに笑い出す。
最近の彼女は、声を上げて笑うことが増えた。
「やっぱりこの浮遊感が良いわ」
彼女は怖がるどころか、階段の上から下までの滞空を楽しんでいる。
案外お転婆な姫様であった。
無邪気に笑う姫様を、侍女や侍従たちが微笑みながら見守っていた。




