ep77:冷やしうどん温玉乗せ
初めてパスタを作ったときから、いずれ作ろうと思っていたものがある。
それは「うどん」。
優しい味付けが好きなリュンヌ様のために、僕はうどん作りを始めた。
生麺の材料は、強力粉、薄力粉、塩、ぬるま湯 、打ち粉としての強力粉。
捏ねて休ませてのばして包丁で切るという流れは、パスタと同じ。
休ませる時間は、うどんの方が長い。
(夏だから、冷やしうどんにしてあげよう。トッピングは飾り切り野菜と温泉卵がいいかな)
個室調理場で生地を捏ねながら、僕はトッピングを考える。
温泉卵は、この世界にはまだ無い。
湯に卵を割り落として加熱するポーチドエッグに似たものはある。
温泉卵が無いのは、白身と黄身の凝固温度差を保つ精密な温度管理が必要だからかもしれない。
火と水の魔法を組み合わせれば温度調節もしやすくて作れそうだけど、そもそもどんなものかイメージできなくて魔法でも無理なんだろう。
しかし、温泉地で暮らし、何度も温泉卵を作って食べている僕なら、イメージは容易だ。
温泉卵は、黄身が半熟または固まりかけで、白身が半凝固のとろりとした状態のゆで卵だ。
温かいままでも冷めても美味しい。
消化吸収が良く、栄養価が高いので、リュンヌ様に食べてもらいたい。
(大体このくらいかな?)
うどんの生地を休ませている間に、温泉卵を作る。
魔法で卵を加熱するのは初めてなので、まずは実験から。
火と水の複合魔法でお湯を作り、65~70℃を保つ。
そのお湯に卵を入れて、調理を開始した。
約15分~30分程度、じっくり加熱する。
何分くらいが手頃かを調べるため、卵を5個入れて5分毎に取り出して割ってみた。
15分だと、ちょっとゆるいかなぁ。
30分は黄身がゼリー状の固まりかけになっている。
冷やしうどんに絡めるなら、20分程度が良さそうだ。
……実験に使った卵は、見習い騎士みんなで美味しく頂きました。
◇◆◇◆◇
リュンヌ様のランチタイム。
僕は冷やしうどんに温玉を乗せて、葉っぱを模した胡瓜と花を模した茹で人参の飾り切りを添えてお届けした。
シータケ出汁で溶いた鰹の血は、やや甘みのあるめんつゆになっている。
「これは、もしかしてパスタ?」
「似てますが、これは【ウドン】といいます。パスタと違って麺に卵や油が入っていないので、白いんです」
リュンヌ様はまだパスタを食べたことが無かった。
春の時点で体調を崩していて、固形物が食べられなかったらしい。
もっと早く知っていれば、助けてあげられたのに。
そのうち、リュンヌ様の好みに合うパスタを作ってあげよう。




