ep76:滑らか茶碗蒸し
陛下と話してリュンヌ様の専属料理人に任命された後。
僕は専用調理場へ行き、姫様の夜食を作り始めた。
材料は、鶏卵、鶏もも肉、干しシータケ、鰹の血、水。
まずは干し椎茸の石づきを切り落とし、スライスして40~60℃くらいのお湯に15分ほど漬ける。
出汁がとれたら少し冷まして、粉ふるいで濾した溶き卵を加える。
舌触りなめらかな仕上がりにするため、出汁は溶き卵の四倍量にする。
だし醤油代わりの鰹の血粉末を、卵液にごく少量溶き混ぜる。
あとは耐熱性のカップに入れて、蒸し器 の中に置く。
蓋つきスープカップが、ちょうどいい容器になった。
最初は強火で約2~3分蒸し、表面が白っぽくなったら、弱火にして約15~20分蒸して出来上がり。
彩りとして、小さな花の形に飾り切りして茹でた人参を上に乗せた。
「ウォルクリスです。お夜食を作ってきました」
「ありがとう。どうぞお入りになって」
湯気が立つ茶碗蒸しをお盆に乗せて運び、リュンヌ様の部屋の扉をノックする。
すぐに姫様の返事があり、護衛騎士が扉を開けてくれた。
「まだ熱いので気を付けてお召し上がり下さい」
「人参がお花の形になってる!」
僕は傍らにあるベッドサイドテーブルにお盆ごと茶碗蒸しを置き、ベッドに座るリュンヌ様の方へそっと押し出す。
茶碗蒸しの蓋を開けて見せると、飾り切りの人参を見たリュンヌ様が、子供らしいはしゃいだ声を上げた。
飾り切りの技術はフルール王国には無いので、かなり珍しかったようだ。
「これはなぁに?」
「【チャワンムシ】という、卵を溶いて出汁や具を混ぜて蒸した料理です」
「煮こごり(アスピック)みたいにプルンとしてるのね」
好奇心いっぱいのリュンヌ様が、くだけた口調になっている。
この世界には、卵を溶いて蒸し固める料理はまだ無い。
姫様はお盆に乗せた銀製のティースプーンを手に取り、茶碗蒸しを掬って口に運んだ。
「柔らかくて滑らかで、口の中でとろけていくわ……。ほんのり甘く感じるこの味は、シータケ?」
リュンヌ様は満悦の笑みを浮かべて言う。
塩気少なめに仕上げた茶碗蒸しは、彼女の味覚にヒットしたらしい。
「干しシータケの出汁と溶いた卵を混ぜたんです。ちょっとだけ鰹の血も入っていますよ」
「美味しい……私、これも好き!」
姫様の無邪気な笑顔を見て、作った甲斐があったと思う。
そうそう、お報せもしておかないと。
「リュンヌ様、僕は今日からあなたの専属料理人になりました」
「本当?! ずっとお料理を作ってくれるの?」
「はい。どうぞ【ウォル】と呼んで下さい」
「ウォル! ありがとう、大好き!」
花が咲くような笑顔が愛らしい。
小さなお姫様がもっと元気になるように、これから頑張ろう。




