ep74:頑固な料理長
「馬鹿もん! 貴様の言うことなど聞くか!」
料理長の反応は、予想通りだった。
麦に似た作物の穂を表わす金糸の刺繍入り黒いコックコートを着たクソジジイは、全く話が通じない。
僕が着ている白いコックコートには、翼を模した金糸の刺繍が入っている。
これは神の加護をもつ料理人の証で、調理場での地位は料理長よりも上になる。
……筈だが、このクソジジイは認めていない。
「姫様は唐辛子が身体に合わなくて体調を崩しているんです。唐辛子を入れるのはやめて下さい」
「好き嫌いを通してしまわれたら、大人になったらお困りになるではないか!」
「いえ、好き嫌いの問題ではなくてですね……」
「毎日食べておれば慣れてくる! 余計なことを言うな!」
クソジジイは全く言う事をきかない。
顔や首筋に血管を浮き上がらせて怒っている。
血管切れるぞ、ジジイ。
「慣れるようなものではないですよ」
「貴様に何が分かる! 姫様に今日会ったばかりのくせに知ったふうなことを言うな!」
こちらは穏やかに話してるのに、料理長はずっと怒鳴りっぱなしだ。
駄目だこいつ。
言葉が通じない。
僕はこの国の言語で話してるのに。
昔飼ってた犬の方が、もっと言葉を理解してくれたぞ。
「あんなに痩せて、姫様が可哀想とは思わないんですか?」
「今はお辛いかもしれんが、好き嫌いを乗り越えられたら、お元気になるのだ!」
「いえ、だから好き嫌いでは……」
「黙れ!」
こいつに情けというものは無いのか?
辛いのが分かってても続けるのかよ。
平民の僕に意見されるのが気に入らない料理長は、何かといえば「黙れ」と怒鳴る。
クソジジイ、頭硬すぎだろ。
脳味噌石化してないか?
その頭、圧力鍋で煮込んだら柔らかくなるか?
ちょっと殺意を込めて睨んでしまった。
僕と料理長との言い合いが続く中、他の料理人たちは巻き込まれないように見て見ぬ振りをしていた。
僕はイラッとして声を荒らげた。
「姫様にとって唐辛子は毒なんです! 食事に入れちゃ駄目です!」
「嘘を言うな! 唐辛子は魔除けの食材だ! 毎日食べれば悪霊も寄り付かず健康になれるのだ!」
ああ、こいつは唐辛子オタクじゃなくて、唐辛子信者だったのか。
唐辛子は、この世界では悪霊を払う効果があると信じられている。
だからこそクソジジイは毎日たっぷり唐辛子を使い、王族を悪霊から護っているつもりなんだ。
しかし、カプサイシンアレルギーに唐辛子を大量に与えたら、体調を崩すだけじゃなく命が危ない。
「もうあなたには頼みません! 僕が自分で作ります!」
僕は言い捨てて調理場を出た。
もう自分で作る方がいい。
陛下に許可をもらってこよう。




