ep73:ひんやりコーンポタージュ
アレルギーとは、本来無害な物質に対して、免疫システムが過剰に反応し、くしゃみ、鼻水、皮膚の痒み、呼吸困難などの有害な症状を引き起こす状態をいう。
過敏反応または過敏症とも呼ばれる。
カプサイシンアレルギーは、口の中に刺激を与える唐辛子の辛味成分カプサイシンに対して、身体が過剰反応する症状だ。
主な症状は口の周りのかゆみ、蕁麻疹、喉の痛み、咳、息切れ、嘔吐、吐き気、腹痛、下痢など。
カプサイシンが中枢神経を刺激してアドレナリンが分泌され、脂肪の燃焼が促進されて一時的な発熱に至ることもあるという。
対策は、辛いものを控えることが最も重要だと地球では知られている。
(ラシスム料理長が作るスープは、どれも唐辛子がたっぷり入ってるんだよなぁ)
個室調理場で鍋の中身をかき混ぜながら、僕は心の中で呟く。
辛い物を食べると吐き気がして熱を出すというリュンヌ様は、カプサイシンアレルギーではないかと予想している。
しかし、この世界にはまだアレルギーの概念は無く、単なる好き嫌いだと思われていた。
「リュンヌ様、こちらのスープはいかがでしょうか。唐辛子は入っていません」
僕はコーンポタージュスープに似たものを氷魔法で冷やして、リュンヌ様にお届けした。
夏なので冷製スープに仕上げている。
ベッドの上で飲みやすいように、スープ皿ではなくマグカップに似た器に入れた。
材料は、とうもろこし(マイス)、生クリーム(クレーム)、フェザンの骨からとった出汁、塩。
粉砕魔法でとうもろこしをパウダー状になるまで砕いて、出汁と混ぜて数分煮る。
火を止めて冷却魔法で冷やし、生クリームを加えたら完成だ。
トッピングとして、魔法で角切りにしてキツネ色に焼いたパンを散らした。
リュンヌ様は両手でカップを持ち、そっと口に運ぶ。
一口飲んで、ほうっと溜息をついて微笑んだ。
「ひんやりしていて、ほんのり甘くて、美味しいです」
「お好みに合ったみたいで良かったです」
僕も微笑んで応えた。
リュンヌ様はスープをゆっくり味わいながら飲み切ると、また満足そうに微笑む。
「辛くないスープを飲むのは、久しぶりです。辛くないものは、小さいときにお母様が作ってくれたスープだけでした」
そう語るリュンヌ様が、少し寂し気な笑顔になる。
お母様ということは、王妃様か。
料理を作るとは聞いたことがないけど、以前は作っていたのかもしれない。
「リュンヌ様の御病気は、お好きなものを食べれば治ると思います」
「本当ですか?」
「はい。だから、料理人に伝えて唐辛子を使わないようにしてもらいますね」
「ありがとうございます!」
僕はリュンヌ様に話した後、空になったカップを持って退室した。
あのクソジジイが僕の提案を聞いてくれるだろうか?
とりあえず話してみよう。




