ep70:入れ替わらなかった朝
「神の料理人よ、素晴らしく美味なるものをありがとう。これは料理に満足した余の気持ちだ」
国王陛下は、金貨がギッシリ詰まった革袋をくれた。
ズシッとした重み。
数えてないから分からんけど、小金貨百枚くらいの重さを感じる。
日本円にして百万円?!
スープパスタ一杯に払い過ぎじゃね?
「こ、こんなにたくさん頂けるのですか?」
「当然だ。あれほど美味いものは初めて食べた。これまで城で食べてきたものが何だったのかと思ったほどだ」
陛下の言葉に、領主様が言っていたラシスム料理長の評価が被る。
ラシスム料理長の料理は「高価な香辛料ばかり使ってちっとも美味しくない」と評されていた。
陛下は幸せそうな笑顔で言う。
「食材を提供してくれたリシュ伯にも礼を伝えておいてくれ。これは彼への礼だ、渡しておいてくれ」
「御存知だったのですか?」
陛下は領主様が食材を提供したことを知っていた。
誰かに聞いたんだろうか? でも、あれは急なことで、領主様と僕しか知らない筈だ。
「パンタードの肉の柔らかさと旨味が、王都で売られるものとは全く違っていたからな。即位前にリシュ領で食したものと同じ美味さであった」
「そんなに違うのですね」
「うむ。素晴らしい食材をありがとうと伝えてくれ」
「畏まりました」
領主様の分も同じくらいの重さだ。
気前の良い人って、ほんとにポンと大金を渡してくるなぁ。
以前に日本でとあるクライアントがお礼だと言って万札の束を渡してきたのを思い出した。
「また来てくれるか?」
「はい。連絡頂ければ、いつでもお伺いします」
期待に満ちた陛下の問いに、どこぞの営業マンみたいな答えを返してしまった。
まあ、いつでも気軽に来れるし。
この金貨があれば、次の料理の材料も買える。
「そのときは、またわたくしがリシュ領へ迎えに行きますわ」
「行くのはいいが、護衛をまくのはやめておけ。さっき蒼白な顔で報せに来たぞ」
「あら、わたくしは少し急いだら護衛とはぐれただけですわ」
陛下はヴィオレット様のお転婆に手を焼いているのかもしれない。
ヴィオレットは様は全く悪びれてないので、またやらかす予感しかなかった。
◇◆◇◆◇
王都から帰った翌朝、僕は異世界で目が覚めた。
互いの眠る時間がズレたんだろうか?
(あれ? 戻ってない? まっいっか)
日本にいるウォルクリスが、夜更かしでもしたんだろうか?
夜更かしなんてする子じゃなかった筈だけど。
そんな、お父さんみたいなことを思いつつ、僕は騎士団の朝食作りに向かった。




