ep69:国王陛下のスープパスタ
「お父様、ウォルクリス様のスープパスタが出来ましたわ。入ってもよろしくて?」
「ああ。ようやく食べられるのだな」
ヴィオレット様が扉をノックして呼びかけると、すぐに陛下の声が返ってきた。
扉の前に立っていた二人の護衛騎士が、その声に応じて扉を開ける。
「冷めないように、鍋ごと運びました。今盛り付けますね」
執務室に入ると、僕はワゴンに乗せてもらった深皿に料理を盛り付ける。
陛下の傍らに控えていた騎士が、スッとこちらへ歩み寄った。
「お願いします」
「はい」
僕は盛り付けをした深皿を差し出す。
騎士がそれを受け取り、銀製のスプーンでスープを掬ってしばし見つめた後、口に含んで味を確かめてから飲み込む。
「問題ありません。陛下、どうぞお召し上がり下さい」
「うむ」
さすがに国王陛下ともなると、毒見必須らしい。
異常が無いことを確認した騎士が料理をテーブルに置き、ようやく陛下の実食タイムとなった。
「おお! これがスープパスタか!」
「フォークに巻き付けると食べやすいです」
「なるほど。ああ、湯気が立つほど熱い料理は初めてだ」
陛下は、まるで初めてお子様ランチを前にした子供のように喜んでいる。
出来立てを冷めにくい鍋ごと運んだから、毒見を介しても熱々だ。
陛下はゆっくり丁寧に味わいながら食べている。
「モチモチした【パスタ】も良いが、このスープが特に素晴らしい。濃厚な旨味に香ばしさと辛みもあって、余の舌を飽きさせぬ味だ」
国王陛下から食レポを賜った。
好みにヒットしてくれて良かった。
喜んでもらえたなら、作った甲斐があるというものだ。
僕は既に料理長の嫌がらせなど記憶の彼方へ押し流しつつあった。
が、ふと思い出したようにヴィオレット様が言う。
「それにしても、物置部屋にしていた調理場があんなに綺麗になっているなんて驚きましたわ」
「え、あそこは物置部屋になってたんですか?」
「ええ。使わなくなった調理器具を置いておく場所でしたの」
ヴィオレット様の言葉に、ぼくは内心納得した。
どうりで蜘蛛の巣が張ってるわけだ。
「料理長にはウォルクリス様が使う調理場を用意しておくように命じましたけど、あの部屋をあんなに綺麗にしておくなんて驚きですわ」
ヴィオレット様は、掃除したのは料理長だと思っているらしい。
僕が洗浄魔法を使ったんだけど、黙っておこう。
料理長の驚きぶりから、子供が使うのはおかしいみたいだし。
オッサンの勘が、ここは誤解させておけと告げている。
「これからは城の大掃除のときに、料理長も呼ぶといいかもしれませんわ」
黙っておいて正解だな。
料理長には大掃除に駆り出されてもらおうか。
僕にあんな部屋を使わせようとしたことがバレたらお叱りを受けるから、料理長がバラすことは無いだろう。




