ep67:食材調達
厨房は綺麗になったけど、ここには食材が無い。
僕は料理長に聞いてみた。
「あの、すいません、食材を分けてもらえませんか?」
いきなり連れてこられたから、僕は何も持ってない。
王宮の調理場で分けてもらえるかと思ったんだけど、料理長はピクッと片方の眉を上げた後、鼻で笑った。
「私が管理する食材は無駄なく使うように発注している。貴様に分けてやれるものなど無い。こいつをくれてやるから自分で買ってくるんだな」
料理長はそう言い捨てて僕にコインを投げ渡し、背を向けて去っていった。
コインを受け止めた右手を開いて見ると、小金貨が一枚。
小金貨は日本円で一万円程度なので、食材を買い揃えておつりが出るくらいだろうか。
王都の商店も気になるし、買い物ついでに少し見てこよう。
(あそこから外に出られるかな?)
調理場から近い出入口から外へ出ると、城の裏庭に出た。
裏庭の先には、料理人や食材配達の商人が出入りする小さな門がある。
門番はいるが、僕が外に出ても呼び止めたりはしなかった。
僕は迷わないように街の人から道を聞きながら、王都の商店街へ向かった。
(お~! 店の数が圧倒的に多いな)
辺境の小さな街と首都では、商店の数が全然違った。
品揃えも随分と違う。
王都の店には、様々な加工品が売っている。
リシュ領の商店に採れたて新鮮な素材が並んでいるのに対し、王都の商店には乾物や瓶詰などが多い。
様々な燻製、魚の干物 (ポワソン・セシェ)、干し肉、果実の砂糖煮などが並ぶ。
肉の加工品も多い。
肉屋にぶら下がっている腸詰には、特に心惹かれた。
(ああ、いいなぁ。あれをツマミに一杯やりたいぜ)
今の身体が子供なのが、とても残念だ。
この世界の成人は15歳なので、ウォルクリスが飲酒できるまであと3年か。
いつまでこの入れ替わりが続くのか分からんけど。
僕は腸詰をしばし見つめた後、パンタード肉の値段を見てビックリした。
(え? 1キロで小金貨1枚? 高くない?)
リシュ領では狩りで手に入れる食材なので、相場がよく分からない。
こんなに高くては、他の材料が買えなくなってしまう。
(っていうか王都、全体的に物価が高いのか)
他の食材も、リシュ領の店に比べてかなり高い。
王都の店では、小金貨1枚で全ての食材を買い揃えるのは無理だ。
僕は料理長の新たな嫌がらせに気づいた。
あの料理長、なんでこんなに嫌がらせするんだ?
僕に料理を作らせないつもりか?
そんなことをして、何の得がある?
だが、料理長は知らない。
僕が転移アイテムを持っているとは、思ってもいないだろう。
(こっちで買えないなら、あっちで買おう)
僕はコックコートの上から胸元のペンダントをそっと押さえて、領主様の隠し部屋への移動を念じた。




