ep65:王宮の調理場は規模がデカイ
王宮の調理場は、数百人分の食事を賄う巨大な施設だった。
分かりやすく説明すると、広さは大手ホテルの調理場くらいと思ってくれたらいいかもしれない。
広い調理場は、作るものによって区画分けされていた。
シンクや調理台は各エリアにあり、担当料理人が作業をしている。
メインエリアの巨大な炉には、中華鍋や巨大な深型寸胴鍋 (マルミット)が置かれている。
ロースト用の回転式串焼き機では、ジュウジュウ音を立てて肉が炙られている。
作業用の長い木製テーブルでは、加熱調理前の下ごしらえ作業が行われていた。
パンや焼き菓子を作るエリアには、大きな石窯が置かれている。
生地を捏ねる魔道具は、巨大なミキサーみたいだ。
そこの木製テーブルでは、パン生地の成形や、スイーツの飾りつけが行われていた。
コールド調理のコーナーは、他のエリアから熱気が流れ込まないように冷気を発生する壁に囲まれている。
ここにはテーブルとシンクがあるだけで、料理人たちは野菜を切ったり盛り付けたりしていた。
(ここまで規模がデカイと、工場みたいだな)
僕はしばし、調理場の広さに圧倒されていた。
それぞれのエリアで作業している料理人たちは、ヴィオレット様に向けて一礼すると、またすぐに作業を再開する。
手を止めていたら、食事の時間に間に合わないと言いたそうな雰囲気だった。
「料理長」
「はい」
ヴィオレット様が呼ぶと、60代くらいに見える男性が進み出てくる。
他の料理人とは、服の色が違う。
黒い布地に金糸の刺繍が施されたコックコートを着た男は、宮廷料理人の頂点に立つ料理長だった。
「イリキーヤ様の加護をもつ方をお連れしたわ。調理場の一部を貸してもらえるかしら?」
「畏まりました」
「陛下がパスタをお望みなの。彼からレシピを学んでおいて頂戴」
「お望みのままにいたします」
ヴイオレット様は料理長に指示すると、調理場から去っていく。
恭しく応じていた料理長は、ヴィオレット様がいなくなった途端に豹変した。
「小僧、貴様の遊び場はこっちだ。ついて来い」
「え? あ、はい」
料理長、いきなり感じ悪くなったな。
連れて行かれた場所は、しばらく使われてないっぽい個室調理場だった。
「好きに使いな。ここなら物を壊そうが散らかそうが誰も迷惑しない」
そう言い残すと、料理長は去っていく。
僕は一人ポツンとその場に残された。
おいおいおい。
何この調理場?
棚、埃だらけだぞ。
おまけに、あちこち蜘蛛の巣張ってるし。
シンク、カビだらけだし。
しばらく掃除してないだろ、ここ。
これじゃ不衛生過ぎて調理なんてできない。
まずは掃除することにしよう。




