ep64:王宮の客室
「ではウォルクリス様には着替えて頂いて、わたくしが調理場へ案内しますわ」
再び、ヴイオレット様にどこかへ連れて行かれる。
着替え、持ってきてないけど?
「ヴィオレット様、コックコートは宿舎に置いてきています。着替えに戻りましょうか」
「それはこちらで用意しておりますわ」
戻る必要ないらしい。
ヴイオレット様は陛下の執務室を出て、美しい庭園が見える回廊を進む。
回廊沿いにある扉の一つの前で立ち止まり、ヴイオレット様はノックで報せた後に扉を開けた。
「じゃ、頼んだわよ」
「畏まりました」
多分ここは客室か?
そこには、二人の侍女がスタンバイしていた。
(あ、なんか既視感が……)
もう、何されるか分かっちまったよ。
客室に入った途端、僕は二人の侍女に浴室へ引きずられていく。
ヴィオレット様はソファに座り、僕が洗い上げられるのを待つ構えだ。
(……抵抗しても、無駄なんだろうな……)
リシュ城の客室よりも豪華な王宮の浴槽は、薔薇に似た花が浮かべられている。
浴室には、ダマスクローズに似た濃厚で甘美な香りが漂っていた。
上品で華やかな薔薇の香りに包まれながら、僕は心を無にして侍女たちに洗われる。
恥ずかしがる必要は無い。
人は生まれたときは裸で、誰かが湯に入れてくれたんだ。
それと同じだと思え。
……オッサンが悟りを開いた瞬間であった。
「お湯の加減は、いかがですか?」
「ちょうどいいです」
お湯の温度は、熱くもぬるくもなく、僕好みだ。
そんなことを思う余裕が出てきたぞ。
「お髪を洗いますので、目を閉じていて下さいね」
「はい」
髪を洗われることには、全く抵抗が無い。
日本でも散髪に行けば洗ってもらってたからな。
今みたいに風呂に入りながら洗われたことはないけど。
「騎士服姿も素敵ですけど、そちらもよく似合いますわね」
着替えを終えて出てきた僕を見て、ヴィオレット様が微笑む。
王宮の侍女たちに着せられたコックコートは、白い布地で襟・袖口・裾に金糸の刺繍が入っている。
ウォルクリスは容姿に恵まれた少年なので、高級感溢れる白服に負けていないと思う。
オッサンの身体で異世界転移しなくて本当によかった。
「では、調理場へ行きますわよ」
ヴィオレット様が、再び僕の左側に立つ。
もはやエスコートも慣れてしまったよ。
お姫様に上品に引っ張り回されてるだけともいうが。
廊下ですれ違う侍女や侍従は、どこまで話を聞いているのだろうか?
みんな頭を下げるので、表情は分からない
見習い騎士がお姫様をエスコートするのも変だけど、料理人がお姫様をエスコートするとか、あるのか?
疑問に思いつつ、僕はヴイオレット様と共に城内を進んでいった。




