ep63:初めての王都
周囲の風景は、まるでスライド映像の切り替わりを見るように一瞬で変わった。
さっきまで領主様の城の隠し部屋にいたのに。
今は、薔薇に似た花が咲き乱れる庭園の白い東屋にいる。
「行きましょう。お父様が今か今かと首を長くして待ってますのよ」
「えっ?! ヴィオレット様の御父上って……」
「国王陛下ですわ」
「……ですよね」
いきなり謁見とか、聞いてないよ~。
ヴィオレット様が迎えに来たからには、会うことになるとは思ってたけど。
王都に移動して直行とは想定外だ。
なんかもうちょっと準備しなくていいの?
「あの、身だしなみとか、問題ないですか?」
「その騎士服は謁見時の正装ですわ」
僕が着ているのは、若葉色の生地に白の縁取りがされた騎士服だ。
見習い騎士用だけど、謁見時の正装にもなるのか。
「帯剣したまま来ちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
「剣も正装の一部ですわ。見習いとはいえ我が国の騎士ですもの」
街の見回りの途中で連れてこられたから、腰には剣を下げたままだった。
問題ないのなら、そのまま下げておこう。
ヴィオレット様は、僕の左腕に白い細腕をかけたまま歩き出す。
庭園の低木を剪定していた庭師らしき老人が、不思議そうに見送っていた。
領主様のお城の10倍くらいありそうなデカイ城の中に入れば、侍女や侍従たちが壁際に寄り、次々に頭を下げている。
(うわぁ緊張してきた。えーと、謁見の作法は片膝をついて跪き、指示があるまで頭を下げておくんだっけ)
ウォルクリスが父親から習った作法の記憶はあるとはいえ、ぶっつけ本番はキツイ。
頼むからリハーサルさせてくれよ。オッサン胃が痛くなっちゃうよ。
陛下とは謁見の間で会うと思ってた。
でも、ヴィオレット様はどんどん奥へと進んで行く。
謁見の間って、こんな奥にあるもんだっけ?
やがて、両脇に騎士たちが立つ扉の前に着いた。
騎士たちは僕のことを聞いているのか、特に驚きもせず真顔で直立不動の姿勢になっている。
「お父様、ウォルクリス様をお連れしましたわ。入ってもよろしくて?」
「うむ。入りなさい」
ヴィオレット様が木製の扉をノックして声をかける。
すぐに返事があり、騎士たちが両開きの扉を開けた。
(あ、謁見の間じゃないんだ)
そこは、国王の執務室だった。
アンティークなデザインの重厚な木製机、革張りの椅子、豪華な布地のタペストリー、本棚、暖炉がある。
領主様の執務室の五倍ほどの広さがありそう。
広い室内には、クッション付き布張りのひじ掛け付き長椅子とテーブルもあった。
「待ちかねたぞ、神の料理人よ」
「国王陛下に御挨拶申し上げます(ジュ・ヴ・サリュ)」
執務机の向こう側から、40代くらいと思われるガッシリした体格の男性がこちらを見つめてくる。
僕はすぐに彼が国王陛下だと分かり、挨拶の言葉を述べた。
ヴイオレット様が左腕に手を添えたままなので、跪く代わりに右手を胸に当てて頭を下げる。
それは、貴族女性をエスコート中に目上の人に会った際に、騎士がとる礼の姿勢だった。
胸に当てる手は利き腕で、私はあなたに敵意はありませんという意味もある。
ウォルクリスが父親から教わったことをしっかり覚えてる子で良かった。
「頭を上げてよい。そう硬くなるな。余は其方が作る【パスタ】というものが食べたくて呼んだのだ。作ってもらえるか?」
「はい、勿論でございます」
国王陛下からパスタをリクエストされたよ。
謁見というより、指名依頼みたいな気がする。
これはまあ想定内なので、僕は冷静に了承した。




