後日談:冷やしぜんざい始めました
連休明けの朝。
僕は異世界で目を覚ました。
枕元には、いつものメモがある。
『冷やしぜんざい、おいしかったです』
……そうかそうか、美味かったか。
先輩たちにおかわりさせず、翌日へ残しておいて良かった。
ウォルクリスが治癒魔法を覚えたおかげで、手にマメは無い。
オッサンの身体とは違って筋肉痛も無く、スッキリした目覚めだ。
(これが若さか)
オッサンとしては、羨ましい限りだ。
とりあえず顔を洗い、コックコートに着替えて厨房へ行く。
昨日は休みだが、真面目なウォルクリスは翌朝の準備をしてくれていた。
干し肉と野菜が入った洋風雑炊で朝食を済ませ、朝稽古を終えて巡回に出る。
一昨日に大行列ができていた屋台の近くを通りかかると、元気な声が聞こえてきた。
「かき氷、本日分は完売でーす」
「冷やしぜんざい、はじめましたー!」
水色髪の少女と、桃色髪の少女が、仲良く並んで呼びかけている。
マリーヌはすっかり元気になったようで、僕はホッとした。
騎士服を着た僕たちが近くを通ると、マリーヌはこちらを見て恥じらいながら微笑む。
アウラウダが笑顔で手を振り、バスチアン先輩は何か察したような笑みを浮かべると、肘で僕をつついてくる。
若い子のトキメキについていけないオッサンは、とりあえず会釈して通り過ぎた。
ジャックさんの食堂の前を通ると、こちらも大行列ができている。
店頭に長机が置かれ、アルバイトの女の子が売り子をしていた。
売られているのは、冷やしぜんざいだ。
「イリキーヤ様の加護をもつ方が教えて下さったスイーツいかがですか? 広場の露店も同じレシピです」
売り子はどちらも同じレシピだと呼びかけている。
異なる店舗で同じ物が同時に販売を開始したから、本物だ偽物だと騒がれないように老舗のジャックさんが配慮してくれたらしい。
どちらの店も、冷やしぜんざいは飛ぶように売れていた。
これから夏になれば、売り上げは更に伸びるだろう。
冬になれば、温かいぜんざいが売れると思う。
「ゼンザイ、この街の名物になりそうだね」
「暑い日は冷たく、寒い日は温かく、街で馴染のスイーツになればいいな」
アウラウダと僕が話した直後、後ろで聞き覚えのある声がした。
「あら、首都では広めないのかしら?」
振り返って見たそこに、艶やかな長い銀髪の少女が立っている。
声を聞いた時点で、誰か分かった。
紫水晶色の瞳をもつ王女ヴィオレット様だ。
「ヴィオレット様、いつリシュ領に来られたのですか?」
「ついさっきですわ。貴方を迎えに来ましたのよ」
ヴィオレット様は微笑んで言う。
そういえば、王都に招くと言ってたっけ。
アウラウダはポカーンとして、バスチアン先輩はビックリして顔を引き攣らせていた。




