ep60:氷魔法で缶ビールを冷やそう
僕は鹿を解放した後、林を出てそのまま温泉街へ向かった。
徒歩20分ほどの坂道だが、筋肉痛に耐えつつ歩いて行く。
一軒だけある小さなスーパーに入ると、缶ビールの六本パックとサラミを買って帰宅した。
晩酌には、一本あればいい。
ウォルクリスは飲まないので、二日に一本だ。
入れ替わりは一日おきに休肝日ができて、肝臓にはいいかもしれない。
僕は隔日の異世界行きを気に入りつつあった。
(そうだ、ジャックさんが使ってた魔法を練習してみよう)
冷やす前のビールを見て、思いついた。
魔法でビールを冷やしてみたい。
いきなりやって失敗するのはビールが勿体ないので、最初は空き缶に水を入れて試してみた。
部屋の隅っこにバケツを置き、その下にはバスタオルを敷く。
バケツの中に水を入れた空き缶を置いて、実験を開始した。
一回目。
(駄目だこりゃ。ビールで釘が打てそうだぞ)
魔力を込め過ぎて完全凍結。
氷点下40℃の世界にいっちゃったかもしれない。
中の水はカチカチに凍り、缶には霜……いや、氷がついている。
氷が鈍器になりそう。
冷やし過ぎだ。
俺はビール氷を食べたいわけじゃない。
二回目。
(麦茶ならアリだけどなぁ)
まだ強かったかな、半分くらい凍ってる。
中の水は、外側が凍って内側は液体のままになっている。
缶には氷がついていて、外から見た感じは一回目と同じだ。
部活に持っていった氷麦茶を思い出した。
麦茶は美味かったけど、ビールは風味が変わって美味しくなさそう。
三回目。
(これだ!)
いい感じに冷えた!
これこれ、これだよ。
缶には霜がついているのに、中の水は凍っていない状態。
もうちょっと魔力を込めていたら凍り始めそうだけど。
この絶妙な力加減を、三回で覚えられたのは僥倖だ。
(おー、いいなこれ。アウトドアに役立つぞ)
水で成功した後は、ビールで試してみた。
ビールは氷水で冷やしたよりも冷たくなっている。
キャンプで役立ちそうだけど、人に見られないようにしないとな。
無詠唱だから気づかれないだろうけど。
ビールの凍結点は水よりも低いので、0℃くらいまでは冷えても大丈夫。
凍り始めるのは氷点下3℃からの筈。
居酒屋の氷結ビールは氷点下2℃だっけ。
今年の夏は、魔法でキンキンに冷やしたビールを飲みながら花火を見よう。
夕飯後。
僕は温泉にゆっくり浸かり、部屋に戻ると魔法で冷やした缶ビールを飲んだ。
冷たいビールとサラミで満足した僕は、畳の上に寝転がってテレビを観るという、いかにもオッサンらしい休日の夜を過ごした後、歯磨きして布団に潜り込む。
露店の女の子たちは、どうしているだろう?
ウォルクリスは冷やしぜんざいを食べたかな?
僕はそんなことを思いつつ、心地よい眠りに落ちていった。




