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オッサンと少年の入れ替わり。オッサンは異世界で美味い料理を作り、少年は日本で無自覚に色々やらかす。  作者: BIRD


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ep59:桜荒らしの鹿

 日本で目覚める朝。

 確かこちらでも昨日と今日は連休だった筈。

 枕元の置時計を見ると、午前九時になっていた。

 休みだから、ウォルクリスがアラームをセットしなかったんだろう。


(もうちょっと寝ようかな……いや、やめとこう)


 僕は目を閉じかけて、やめた。

 うっかり二度寝してまた入れ替わったら困るので、起きることにしよう。

 僕は布団から起き上がり、軋みは無いが筋肉痛が残る足を引き摺りつつ、休憩室へ向かう。


「あ、おはようございます」


 休憩室へ行くと、次女の桔梗ききょうさんと三女の百合ゆりさんがいた。

 お客さんへの配膳が終わり、遅い朝食をとりに来たらしい。


 僕も席に着き、ラップを被せてあるお膳を見ると、白玉団子のお汁粉がついていた。

 ぜんざいではなく、お汁粉。

 その違いは、小豆をそのまま入れているか、こしあんみたいに粒を無くしているかだ。

 お膳に乗っているのは小豆の粒が無いから、お汁粉になる。


「そうそう、桜荒らしの鹿、昨日から来てないんですよ」

「え? どうしたんでしょうね?」


 お味噌汁を味わう合間に、百合さんが言う。

 桜荒らしの鹿……あいつ、そんな二つ名ついてるのか。

 昨日から来てないのは、何故だろう?

 一昨日の記憶によれば、ウォルクリスは身体強化を使って鹿に追いつき、背中を叩いただけだった。

 もしかして、あれにビビリ過ぎて、来なくなったんだろうか?

 僕は休日なので私服のまま枝垂桜の近くへ行ってみた。


(いないな)


 朝10時、いつもなら現れる時間に、鹿は姿を見せなかった。

 こうなるとちょっと心配になるもので、僕は散歩を兼ねて林の中へ入ってみた。


(あいつが鹿と並走したの、この辺りまでだっけ?)


 ウォルクリスがオッサンの身体に無茶な身体強化をかけて、鹿に追いついて話しかけ、背中を叩いた地点。

 僕はその後に鹿が逃げ去った方へ進んでみた。


(見つけた! ……ってこいつ、どうしてこうなった?)


 歩いていった先に、鹿がいた。

 蔦が足に絡まって、木に縛り付けられたみたいになっている。

 鹿は僕を見た途端、チワワみたいにプルプル震えて涙目になった。


「あーすまん、虐めるつもりは無いからそんなにビビるな」


 鹿に声をかけると、ビクッとして逃げようとするが、蔦が絡まっているので走れない。

 近付くと更に怯えそうなので、僕はそれ以上接近せずに魔法で蔦を取り除くことにした。


 生活魔法:ブロワージュ(粉砕)


 間違って鹿を巻き込まないように、細心の注意を払った。

 蔦は粉々になり、地面に降り積もる。

 自由を取り戻した鹿はキョトンとした後、ハッと我に返って飛び上がり、跳躍しながら木々の向こうへ消えていった。

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