ep58:先輩たちとゼンザイ
試食品を届けた後。
僕は宿舎に帰り、アウラウダと共に厨房でゼンザイ作りを始めた。
「あれ? 今日は休みじゃなかった?」
「なんか美味そうなもん作ってるな」
ラフォルムとティミッドが覗きに来る。
彼等は厨房に漂う甘い香りに誘われて、鍋を覗き込んだ。
「おやつだよ」
焦げ付かないようにゼンザイをかき混ぜながら僕が言ったら、二人は液状おやつを見た猫みたいに目を丸くする。
ジャーキーを見た犬っぽくもある。
某キャラクターのペロペロチョコを見つけた幼児の顔にも似ている。
「え? おやつ?」
「休みなのに、作ってるの?」
言葉はこんなだが、顔には「食べたい」と書いてある。
僕は出来上がったゼンザイを木製のお椀に入れて差し出した。
「食べていいよ」
「「ありがとう!」」
「いただきまーす」
アウラウダも自分でよそって食べ始める。
見習いメンバーが熱々のゼンザイにフーフー息を吹きかけて食べ始めたとき、僕はふと視線を感じた。
振り返ってみると、食堂の窓の外側に、先輩たちが群がっている。
中へ入りたいけど、僕たちの休日だから我慢してるんだろう。
よく見たら団長まで顔面を窓にへばり付かせている。
僕は厨房を出て食堂の中央を通り、窓に歩み寄った。
「食べますか?」
「い、いいのか?」
「どうぞ」
「ありがとう!」
僕が許可したら、食堂に先輩たちが雪崩れ込んでくる。
っていうか全員かよ。
休日に何してたの?
先輩たちは、あっという間に食べ終えて期待の目をこちらに向けてくる。
「あ、今日はおかわりありません」
僕が言うと、先輩たちは揃ってガーンと打ちのめされた顔になる。
甘い物食べ過ぎたら糖尿になるぞ。
……あ、この人たちは運動量が多いから大丈夫か。
しかし、おかわりは出さない。
ゼンザイは鍋に残ってるが、今食べ尽くされるわけにはいかないからな。
「これは冷やして食べても美味しいんです。明日は冷やしたのを出しますから、今日は一杯で我慢して下さい」
「「「……はい……」」」
オアズケ宣言に、先輩たちがションボリしながら帰っていく。
もう、どんだけ食いしん坊なんだよ。
僕が呆れていると、団長だけがふと思い出したように振り返った。
「というかウォル、君は明日も休みの筈だが、いいのか?」
よかった、団長は部下のシフトを把握している。
オヤツに魅了されようとも、そこは冷静なんだな。
「おやつの時間だけ食堂を開きます」
この国のおやつの時間は、少し日が傾いてきた午後四時頃だ。
僕は明日はいないけど、【僕】が代わりにやってくれるだろう。




