ep57:試食品と少女たち
試食用の冷やしぜんざいを届けに行くと、診療所の扉の向こうから話し声が聞こえる。
扉を開けて室内に入ると、マリーヌはベッドの上で起き上がってモルガニットや医師と雑談していた。
マリーヌの意識が戻って、モルガニットもホッとしている。
三人は扉が開く音に気付いて振り返った。
「ほらマリーヌ、彼があなたを助けてくれた騎士様だよ」
「ウォルクリス様、ありがとうございました」
マリーヌがちょっとはにかんだ笑顔でお礼を言ってくる。
僕の名前は、モルガニットが教えたみたいだ。
「あ、僕は見習い騎士で、平民の子供です。様付けは要らないですよ」
僕は自分の身分を告げた。
そういやモルガニットに言い忘れてたな。
騎士団メンバーは大半が貴族なので、マリーヌは僕の名前に様を付けたんだろう。
「でも、助けて頂いたので」
と言うマリーヌの頬が、ポッと赤く染まる。
これはあれか、若さゆえのトキメキというやつか。
オッサンはもう宇宙の果てに置いてきたから分からんけど。
そういや、ウォルクリスは美形だったな。
しかも12歳なのに身長は15~6歳並みだし。
細マッチョで腹はシックスパックだ。
そんな奴にお姫様抱っこされて運ばれたと知れば、若い娘はときめいちゃうのか?
「大したことはしてないですよ。はいこれ、試食の【冷やしぜんざい】です」
「いただきます!」
オッサンはトキメキについていけないので、食べ物で話題を変えた。
モルガニットが元気よく受け取る。
ベッドに座るマリーヌもおずおずと受け取った。
老医師から木製のスプーンを借りて、少女たちは広口瓶から豆や団子を掬い出して口に運ぶ。
「お豆、甘くてふっくらして美味しい! お砂糖で煮たの初めて食べました」
モルガニットが真っ先に感想を述べる。
彼女は明るく社交的で、接客向きの性格かもしれない。
「このモチモチした白いのも、美味しいです」
少し遅れて、マリーヌが穏やかな口調で言う。
彼女は大人しくて内向的だけど、真面目にコツコツ仕事をこなすタイプに見える。
正反対な性格の少女たちは、良いコンビに見える。
二人とも可愛いし。
お店の行列の中には、彼女たちのファンもいたのかもね。
そういやマリーヌを抱き上げたときに、背後のお客がどよめいてた気がする。
一方。
試食品は老医師にも配ったのだけど……
「おお、これがイリキーヤ様が授けて下さった新たなスイーツか……ありがたやありがたや……」
……なんかありがたがって、テーブルに置いた瓶を拝み始めたぞ。
食べる前にぬるくなりそう。
冷たくても温かくても美味しく食べられるから、放置しておくか。




