ep56:ジャックさんの氷魔法
「領主様、このスイーツを街の屋台でも売ってもらおうと思うのですが、構いませんか?」
「それは、今日から屋台を始めたマリーヌとモルガニットのところか?」
「御存知でしたか」
「当然だ。出店許可を出したのは私だからな」
僕が伝える前に、領主様は彼女たちのことを知っていた。
管理者だから、知っているのは当然かもしれないけれど、いいかげんな人ならすぐ忘れているだろう。
この人、意外と真面目に仕事してるんだな。厨房に入り浸ってるイメージあったけど。
豆の一粒残さず、汁も綺麗に飲み切ると、領主様はナプキンで口元を丁寧に拭いた。
「あの氷菓子ならば、売れるのは分かっていた。マリーヌが倒れるまで販売を続けたのは想定外だったが」
「氷菓子は、無理のない数で限定販売するよう伝えました」
「うむ、無理はいかん。氷菓子以外の物も売れば、店をもつ資金は稼げる筈だ」
領主様は、少女たちが目指すものも知っていた。
出店許可を出す前に、話をしっかり聞いてあげたんだろう。
それだけじゃなく、マリーヌが倒れたことまで知っていた。
見回りの誰かが報せたのかな?
「お前が彼女を助けたのも何かの縁だろう。イリキーヤ様のお導きと思い、屋台でも売ってもらいなさい」
「ありがとうございます。ゼンザイは多めに作りましたので、彼女たちに試食を届けてもよいですか?」
「許可しよう。ジャック、魔法で冷やして、瓶に入れてやりなさい」
「はい」
領主様はお裾分けを許可してくれた。
それどころか、冷やしたり瓶に入れてくれたり、なんかサービスいいな。
この人、やはり女性に甘いタイプだ。
っていうかジャックさん冷却系の魔法が使える?
「凍らせなくてもいいんですね?」
「はい、ひんやり冷たくなればいいです」
ひんやりした食糧庫の中、更にひんやりした魔法が起動する。
ジャックさんがゼンザイ入りの鍋に片手を向けると、キラキラと雪の結晶のようなものが現れて、鍋を覆った。
いいなこれ。イメージを覚えて僕も使えるようになろう。
僕が夢中で見ていることに気づくと、ジャックさんはフッと大人の笑みを浮かべた。
「ウォルくんもすぐに使えるようになるよ。イリキーヤ様の加護もちなんだから」
「はい、後で練習します」
心の中に、六角形の結晶が舞う。
イメージは掴んだ。後は練習あるのみ。
これが使えたら、冷たい料理も作れるし。
氷魔法を使えるようになったら、氷属性攻撃とかできるかも。
オッサンの中二病がまた疼いてしまった。
でもその前に、試食品のお届けだ。
ひんやり冷たい瓶を布袋に入れてもらい、僕は城を出て診療所へ向かった。




