ep04:先輩たちとダークマター
ツルツルモチモチの麺を食べ終える頃。
ふと視線を感じて横を見たら、他のテーブルで食事をとっていた先輩たちが、みんなこちらを見つめていた。
先輩たちは、何かに驚いたように、目を真ん丸にしている。
視線は、僕たちの手元にある木製の深皿に向けられていた。
(パスタが珍しいからかな?)
キョトンとしながら、僕はそう思った。
先輩たちはダバーッと涙を流したかと思ったら、一斉にこちらへ走ってきて僕を取り囲んだ。
「えっ?!」
「ウォル……」
「お前……」
「料理……」
「できる子だったのかぁぁぁ!」
先輩たちは僕の周囲で跪き、涙を流しながら崇めるように見上げてくる。
僕の隣に座って骨付き肉を齧っていたアウラウダや、向かいの席で麺をすすっていたラフォルムとティミッドが、ドン引きして固まった。
(あ、ダークマター……)
先輩たちがいたテーブルをチラッと見た僕は、心の中で呟く。
もはや何の食材を使ったか分からない、漆黒の塊がテーブルに置かれている。
自炊しろと言われてこの世の終わりみたいな顔をしたわけが、今分かった。
この人たち、ダークマター製造職人なんだ。
「ああ、神は我らを見捨てなかった……」
「ウォル、君はイリキーヤ様が遣わした天使に違いない」
先輩たちの目が、ウルウル潤んだかと思えばキラキラと輝き始める。
いや、僕は転生者だけど、神様には会ってないし、天使じゃないと思うよ。
困惑していたら、先輩たちの腹が一斉にグゥ~ッと大合唱した。
「……えーと……先輩たちの分も、作りましょうか?」
「「「お願いしますっ!」」」
戸惑いつつも言ってみたら、先輩たちが声を揃えて即答する。
僕は食べ終えた食器を流しに置くと、二十人分のパスタ作りに取り掛かった。
「宿舎の厨房、借りますね」
「ああ、構わない。使える物は何でも使ってくれ」
団長の許可を得て、僕は建物内の厨房に入った。
こちらは大人数向けの調理ができる設備が整っていて、作業効率が良い。
厨房の過熱調理器具には、火の魔石が使われている。
魔石はこの世界でのエネルギー源で、一般家庭でもよく使われるものらしい。
麺の生地は、大きなボウルと木ベラで捏ね上げる。
ボウルに大きな布巾を被せて、捏ね上げて丸めた生地を休ませた。
串焼き用のグリルで骨付き肉を炙り、大鍋に沸かしたお湯で煮て出汁をとる。
スープができる頃には、生地もちょうどよい寝かせ具合になっていた。
生地をのばして切る作業も、広い調理台やまな板があるので、やりやすい。
次は麺を茹でよう。
厨房には複数の大鍋があり、ラーメン屋などで使われている「テボ」みたいな取っ手付きザルもあった。
ラーメン屋やそば屋みたいに、一人分ずつテボに入れて次々に茹でていこう。
「手伝おうか?」
「うん。助かる」
「何すればいい?」
「茹でたやつを器に入れて渡すから、スープを注いで」
「分かった」
アウラウダが手伝いに来てくれて、効率UP。
僕はテボに入れた麺を茹でて、湯切りして器に盛って渡す。
アウラウダはそこにスープを注いで、調理台に置いた。
「できたやつ運ぼうか」
「うん。頼む」
ラフォルムとティミッドも来てくれて、更に効率UP。
アウラウダがスープを注いだら、二人が配膳カウンターまで運んでくれた。
「おおお! 美味そう!」
先輩たちは配膳カウンター前に並んでいる。
カウンターに置かれたスープパスタを、待っていた先輩たちが嬉しそうに受け取った。
「美味い!」
「このツルツルモチモチが、たまらん!」
「スープも絶品だ!」
先輩たちは大絶賛しながら、麺をすすり、肉を頬張り、スープの一滴まで残さずペロリと平らげた。
こんなに喜んでくれるなら、作った甲斐があるな。
今後は僕がみんなの食事を作ることになりそうだけど。
(……あれ?)
厨房内からカウンター越しに食堂を見回していた僕は、食堂の窓の外にいる人物に気づいてしまった。
でっぷり太った意地悪そうなオッサンが、ヨダレを垂らしながら室内を見つめている。
(領主様? なんであんなところに……)
不思議に思いつつ見ていたら、オッサンもとい領主様と目が合ってしまった。
僕が見ていることに気づいた領主様は、ハッと我に返って叫ぶ。
「見習いの小僧! 城の厨房を使うことを許可してやるから、私にもそれを作れ!」
「「「?!」」」
領主様が大声で叫んだので、食堂にいる先輩たちがビックリして固まる。
僕と見習いメンバーはポカーンとしてしまった。
「小僧、お前の名を名乗れ」
「ウォルクリスといいます」
「ではウォルクリス、私についてこい」
「はい」
まさか、スープハスタを作らせるために呼ばれるとは……。
領主様に命じられ、僕は大人しくついていった。




