ep03:骨付き肉と山菜のスープパスタ
見回りを終えて宿舎に帰ると、先輩たちが屋外で調理を始めていた。
宿舎の隣には、キャンプ場の炊事場みたいに簡単な煮炊きができる設備が5つある。
宿舎の建物内には本格的な調理場があるけれど、先輩たちはみんな屋外に出て、4つの簡易調理場で作業していた。
「前にここへ来たときは、こんな炊事場は無かったから、変だなあとは思ったんだ」
「あいつら、野営用の道具を使って自作したんだな」
「まさか、ここで自炊することになるとは」
「うぅ……ベルが作る料理を楽しみに来たのに……」
先輩たちがボヤきながら、5人ずつのグループに分かれて作業をしている。
みんな、背中に哀愁が漂っていた。
宿舎内の調理場を使わないのは何故だろう?
野営用の道具の方が慣れているからかな?
見習いの僕たちも、空いている炊事場を使うことにした。
コンロの代わりにあるのは、石を組んで作られた炭火調理用の竈。
水道の代わりにあるのは、レトロなデザインの手押しポンプがついた汲み上げ井戸だ。
歩き回って喉が渇いた僕たちは、井戸の近くの棚からコップを取り、手押しポンプで汲み上げた水を注いで飲んでみた。
冷たい井戸水は余計な雑味がなく、非常にまろやかで飲みやすい。
前世でよく飲んだ軟水よりも、美味い水だった。
「この水、美味い」
「村の井戸水より美味いな」
自炊することに先輩たちほどショックを受けていない僕たちは、呑気に水の美味さを喜んだ。
見習い騎士は四人だけなので、一緒に夕食を作ることにした。
材料はここに来る前に獲ったフェザンの肉、採集した山菜、国からの支給品の調味料や小麦粉。
この世界の主食はパンだけど、それを作っていたら日が暮れてしまいそうだ。
「よし、スープパスタを作ろう」
「パスタって何だ?」
「まあ見てなって」
僕は食糧庫から強力粉っぽい粉、卵、塩、オリーブオイルに似た油を持ってきて、調理台上に置いた。
そうそう、こんなマメだらけの手で生地に直接触れるわけにはいかない。
僕は調理台に置かれている壺からゼリー状の物を取り、両手の指先から手首まで塗りつけた。
それはアロエに似た植物から採れるゼリーで、皮膚をコーティングして傷を保護したり、手袋の代わりになったりする。
ゼリーはすぐに乾いて、ビニールのグローブみたいなものになる。
手袋ができたところで、僕は材料をボウルに入れて木ベラで混ぜ始めた。
【僕】の記憶によれば、この世界にはパンはあるけど麺類は無い。
調理にかかる僕を、他の見習い騎士たちが不思議そうに眺めている。
材料を混ぜて、捏ねて、打ち粉で硬さを微調整しつつ滑らかな生地に仕上げる。
捏ね上げたら、ラップ代わりの大きな葉っぱで包んでしばらく休ませる。
その間に、スープ作りをしよう。
フェザンの骨付き肉を炭火で軽く炙って余分な脂を落とし、鍋に入れて水を注ぎ、竈にかけて煮る。
水面に浮かび上がる脂をお玉で掬って取り除き、いい出汁がとれたところで調味料を入れて味を調えた。
最後に山菜を入れて、熱を通したらスープは完成だ。
僕は麺を茹でるお湯を沸かすため、隣の竈にたっぷりの水を入れた鍋を置いて火にかけた。
「スープ、美味そう……」
「「腹減った……」」
見ているアウラウダの顔が緩む。
ラフォルムとティミッドの腹が、仲良く揃ってグゥ~ッと鳴った。
次は麺作り。
スープを作っている間に生地も程よく休ませられたので、スベスベした石でできたまな板の上に置いて、打ち粉をして手の平で押しつけ、めん棒でのばす。
1~2ミリくらいの厚さにのばしたら、打ち粉をして三つ折りに折り畳み、スケッパーで5~6ミリ幅にカットする。
カットした麺を手でほぐして打ち粉をまぶし、沸かしたお湯の中にバラバラと入れてトングで2~3回かきまぜて、水面に浮き上がってくるまで茹でればOK。
「へえ、なんだこれ、初めて見る料理だな」
「なんか分からないけど絶対美味い気がする」
ラフォルムとティミッドは好奇心と食欲を刺激されて、顔が緩みまくっている。
僕は茹で上げた麺を木製の深皿に入れて、スープと具を注いだ。
「はい完成。テーブルに運んだら食べていいよ」
「「「ありがとう!」」」
骨付き肉と山菜のスープパスタのできあがり。
腹ペコの僕たちは炊事場の隣のテーブルにパスタを運び、ふうふう息を吹きかけて熱々の麺をすすった。
「スープ美味い!」
「この細長いやつ、ツルツルでモチモチしてる!」
「ウォル、こんな料理いつ覚えたんだ?」
食べるのに夢中なラフォルムとティミッドは気にしてないが、幼馴染のアウラウダは僕が見知らぬ料理を作れることを不思議がっている。
そりゃそうだよな。
パスタなんて、故郷の村で作ったことないし。
「夢で見て、美味そうだったから試しに作ってみたんだ」
「もしかしてそれ、イリキーヤ様が見せた夢かもしれないな」
イリキーヤ様というのは、この世界に言い伝えられる火食の神様だ。
昔から、新しい料理がひらめくのは、イリキーヤ様が教えてくれたのだとされていた。




