ep02:新しい領主
「先に食材を食糧庫に片付けよう。見習いメンバーは全員ついてこい」
「「「「はい!」」」」
宿舎に着いた僕たち見習い騎士は、先輩騎士の後ろについて食材の搬入を手伝った。
庫内の壁に、魔法文字が書かれた透明な石が嵌め込まれている。
その石から冷風が吹き出ていて、庫内は業務用冷蔵庫みたいにヒンヤリしていた。
この世界は、家電の代わりに魔道具が普及しているらしい。
「ベル~、食材を持ってきたぞ。……あれ? いないな」
先輩は食糧庫の隣の調理場に向かって呼びかけた。
けれど返事は無く、人の気配も無い。
「買い物にでも出てるのかな。まあいいや、搬入を済ませよう」
食堂のおばちゃん(?)がいなくても、何度かここに来たことがある先輩には置き場所が分かるらしい。
先輩に指示されて、僕たちは馬車に積んできた全ての食材を食糧庫に納めた。
「よし、あとは自分の荷物を部屋に置いたら、領主様に挨拶に行くぞ」
「「「「はい!」」」」
割り当てられた部屋に行ってみると、木製の机とベッドが二つずつあるだけの質素な相部屋だった。
僕とアウラウダが同室で、隣はラフォルムとティミッドの部屋だ。
前の住民が出る前に掃除をしていて、部屋にゴミや埃は落ちてない。
部屋に荷物を置いたあと、騎士団と見習いの僕たちは領主様のところへ挨拶に向かった。
辺境のお城は古いけれど、しっかり掃除されていて、中は綺麗だ。
領主様との謁見に使われる広間は、派遣された騎士20人、見習い4人が余裕で入れる広さがあった。
「父に代わり私が領主となったグルマンディーズだ。皆、今日より一年間、領地の守りと鍛錬に励め」
「お任せ下さい、領主様」
でっぷり太った領主様に若干悪役オーラを感じるが、気にしてはいけないんだろう。
騎士団を代表して、団長のアルマンさんが応えた。
「そうそう、宿舎の料理人だったベルには城の専属料理人になってもらった。お前たちは自分で食事の支度をするように」
「?!」
領主様が告げた途端、団長と先輩たちがサーッと青ざめた。
まるでこの世の終わりみたいな顔してるけど、自炊ってそんなにショックかな?
キョトンとする見習いメンバーとは違い、団長と先輩たちは石化したように固まっている。
「すみません、代わりの料理人は……見つからないのでしょうか……?」
「そんなもの募集するわけがないだろう。お前たちの餌に料理人など不要だ」
「そ、そんな……」
「話は終わりだ。とっとと警備に行け!」
領主様が半ギレ気味に命じる。
スゴスゴと退室する団長と先輩たちは、男泣きに落涙していた。
「あいつらがやつれていたのは、ベルのメシが食えなかったせいか……」
街の見回りをしながら、バスチアン先輩が溜息混じりに呟く。
僕たちと入れ替わりで宿舎を出ていった騎士たちは、みんなゲッソリやつれていた。
その理由が自炊を強いられたせいとは、予想外だった。
騎士団の仕事は街の警備で、三人一組で地区を分けて見回る。
僕とアウラウダはバスチアン先輩に連れられて、街の商業区で見回り研修を受けた。
説明の合間にも、先輩は落胆したように溜息をついている。
「ベルさんの料理って、そんなに美味しいんですか?」
「ああ最高だ。美人だし、何作っても美味かった」
「ベルさんて美人なんですか?」
「ハーフエルフでな。俺たちより年上だが見た目は16歳くらいの綺麗な人だよ」
「それは会ってみたいですね」
若くて綺麗な女性と聞いて、アウラウダが興味津々で聞いている。
前世でファンタジー好きだった僕も、エルフやハーフエルフには是非とも会ってみたいと思う。
「リシュ領は食材の宝庫だし、美女の手料理が食えるから楽しみだったのに……」
呟くバスチアン先輩の頬を、ツーッと一筋の涙が伝った。




