ep50:柑橘果汁とだし醤油のタレ、大根おろし付き
結局、夕飯もカツを作ることになってしまった。
揚げ物二連なんて、オッサンなら胃もたれしちゃうよ。
食べ盛りの少年の身体で良かった。
「あら、ウォルくん、買い物?」
街の八百屋で大根を買っていたら、背後からベルさんの声がする。
手にしたトートバッグっぽい手提げ袋から見えているのは、蜂蜜らしき液体が入った瓶だ。
お城の食材は出入りの商人が配達してるけど、蜂蜜を切らしたのかな?
「はい、夕食もカツをリクエストされたので、タレを変えようかと」
「違うタレにするの? どんなタレ?」
タレの話をしたら、ベルさんが興味津々になる。
もしかしたら彼女も領主様からカツをリクエストされてるのかもしれない。
「おろしダレとか、おろしポン酢醤油とか、そんな名前のタレになります。それで、これを買いました」
「大根をすりおろすのかしら」
「はい」
「食糧庫に大根があるから、私は買わなくてもいいわね」
僕は八百屋で買った大根を紙袋に入れてもらい、受け取りながら話す。
ベルさんが現在庫を言うってことは、早速作ってみたいのだろう。
「他の材料は、一緒に買い物しながら教えましょうか」
「うん、お願い」
僕の誘いに、ベルさんは即答した。
それはいいけど、何故に手を繋ぐのだろうか。
「あの、ベルさん、僕もう迷子になりませんよ?」
「え? あ、そ、そうね」
僕としては6日だけど、【僕】の記憶も合わせれば二週間近く。
毎日街を巡回しているから道は覚えてるし、さすがに迷子にはならない。
しかし、ベルさんは繋いだ手を離さなかった。
「ならエスコートね。男性は女性と出かけるときは、手を引いて歩くものよ」
「それは、貴族だけなのでは……」
「子供が細かいことを気にしちゃダメよ」
ジェントルメンなのか、チルドレンなのか。
よく分からんけど、僕はそのまま手を繋がれて八百屋を出た。
食材の宝庫と言われるリシュ領の街には、柑橘系果実も豊富に揃っている。
春の柑橘系果実は、綺麗な深緑色をしたものが多い。
「柑橘系の果汁を使います。酸味が強めのものにするか、まろやかなものにするかは、食べる人の好みで選んだらよいです」
「領主様は好き嫌いが無いから、どちらも喜ばれそうね」
「騎士団メンバーも好き嫌いは無さそうなので、適当に買っていきます」
「それなら、アルマンが好きな【月神の文旦】がいいかも。ほら、この果実よ」
ベルさんが手にして見せたのは、彼女の顔が隠れるくらい大きな果実だった。
大きさ、形、皮の色は晩白柚に似てる。
「今が旬の果実だよ。味見してごらん」
果物を売る露店の主が、気を利かせて味見用にカットした果肉をくれた。
透き通るピンク色の綺麗な果肉で、フルーティーで上品な芳香がある。
口に放り込んで味わってみると、爽やかでジューシー、ほどよい酸味と甘みがある美味しい果実だった。
「これにします」
「まいどあり」
「支払いは領主様で、騎士団の経費として請求してね」
「畏まりました」
一応、現金は団長から預かってきたのだけど。
ベルさんが一緒だったおかげで、掛売にしてもらえた。
「あとは鰹の血と、唐辛子ですが、これは在庫があるので今日は買いません」
「お城の食糧庫にもあるから、私も買わなくていいわね」
僕たちは買い物を終えてリシュ城へ向かった。
うっかり手を繋いだまま城内に入っちゃったせいで、領主様がちょっと不機嫌になったけど。
◇◆◇◆◇
「ソースなので作り方は簡単です。【月神の文旦】と【鰹の血】を粉末のまま混ぜるだけですよ。あとはカツに大根おろしを盛って、タレを上からかけて、刻んだ唐辛子を1つまみ散らせば完了です」
「ほう、昼間のソースも甘辛くて美味であったが、この爽やかな酸味のソースも良いな」
領主様の夕食は鶏もも肉のカツだった。
こっちも昼に続くカツ二連だ。
みんな、どんだけカツ好きなんだよ。




