ep45:バゲットでパン粉を作ろう
僕たちが持ち帰った猪は、ベルさんが解体してくれた。
ハーフエルフの美少女が包丁片手に三頭の猪を高速で捌く姿は、少々怖いので見なかったことにしておこう。
「ベルさん、バゲットを乾燥させたり、細かく砕いたりする生活魔法ってありますか?」
「あるわよ。水分の除去と、粉砕ね」
お城の厨房で肉をトンカツサイズに切り分けながら、僕はベルさんに聞いてみた。
切り分けを手伝った後、ベルさんは僕を連れて再び屋外調理場まで歩いていく。
(これって、やっぱり失敗前提なんだろうな)
バゲットを抱えてベルさんの後ろをついて歩きながら、僕はそんなことを思って苦笑した。
「それ、ここに置いて」
ベルさんの指示で、バゲットを大きなカッティングボードの上に置く。
彼女がバゲットに手をかざし、魔法を起動すると、乾燥が始まる。
が、乾燥してもバゲットの見た目はそんなに変わらないので、どうなってるのか分かりづらい。
しかし乾燥後のバゲットは、硬さが増して弾力が減っていた。
「これは水属性の生活魔法で、イメージとしては食品の水分だけを掌で吸い取ってる感じね」
「吸い取った水分はどうなるんですか?」
「お肌の潤いに役立つわ」
……お肌が潤う魔法でもあるらしい。
「ウォルくんも、やってみて」
「はい」
ベルさんが隣のカッティングボードを指差す。
乾燥前のバゲットに歩み寄り、僕はベルさんの真似をして乾燥の魔法を起動してみた。
「あれ?」
しかし、なんか違う。
バゲットから水分を抜き取ることはできた。
僕の肌に水分は吸収されず、手の甲を丸い水滴が転がるように滑り、地面へと落ちていく。
「吸収されませんね。失敗でしょうか?」
「……若いって、いいわね」
何故かベルさんが悔しそうなんだが。
どうすればいい?
「まあいいわ。それは成功ってことで。次いくわよ」
「は、はい」
ベルさんは話題を切り上げてしまった。
なんとなくだが、もうこの話題には触れてはいけない気がする。
「次は粉砕ね。これは風属性で、イメージとしては風を回転させて食材を細かく刻むの」
ベルさんが、乾燥させたバゲツトに再び手をかざす。
バゲットはフワリと空中に浮き上がり、回転し始めた途端に細かく崩れてパン粉になっていく。
ほんの数秒でカッティングボードの上にパン粉の山が盛られた。
「やってみて」
「はい。……あれ?」
僕も真似して魔法を起動したんだが、どうも上手くいかない。
パン粉を作る筈が、クルトンになってしまった。
「スープに浮かべて食べたら、美味しそうね」
「これにもう1回ブロワージュをかけたら、細かくなりますかね?」
「なると思うわ」
僕はクルトンの山に同じ魔法をかける。
クルトンがパン粉に変わった。
この魔法は、日本でのフードプロセッサー代わりになりそうだ。
「もしかして、その応用で食材をスライスすることもできますか?」
「同系統の生活魔法で【薄切り(エマンセ)】があるわ」
「じゃあ、ついでに練習したいです」
「いいわよ。みんなついでに覚えるものだから」
この日、僕は生活魔法の【水分の除去】【粉砕】【薄切り(エマンセ)】を習得した。




