ep43:猪(サングリエ)狩り
赤味噌といえば名古屋、名古屋といえば味噌カツ。
そう思うのは、僕だけではない筈。
赤味噌っぽい味の実を口にしたそのときから、僕の思考に「味噌カツ」の文字が浮かんでいる。
「ウォル、アウラ、今日はこれから狩りに行くぞ」
「何か必要な食材があれば、言ってくれ」
朝稽古の後、バスチアン先輩とシャスール先輩が、僕とアウラウダに話しかけてくる。
騎士団の食材は、保存のきく粉類と米と調味料以外は、基本的に自給自足だ。
「猪をお願いします」
「よし、ならそれを狩ろう」
僕のリクエストは、あっさり受理された。
それぞれ武器を手に森へ向かう。
バスチアン先輩は、ランスと盾。
シャスール先輩は、大きな両手剣。
僕とアウラウダは、小回りの利く片手剣。
「リシュ領の猪は山菜や木の実をたっぷり食ってるから、臭みが無くて美味いぞ」
森の中を歩きながら、シャスール先輩がうんちくを語る。
彼はダークマター職人だが、食材に関しては造詣が深い。
「お、いたいた」
しばらく歩くと、バスチアン先輩が小声で言う。
彼が指さす木々の向こうに、1頭の猪がいた。
猪は木の根元にはえた白い茸を夢中で食べている。
「最初は俺が行こう」
バスチアン先輩が進み出る。
僕たちは茂みに隠れて待機しながら、その動向を見守った。
茸を食べるのに夢中だった猪が、気配を感じたように振り返る。
バスチアン先輩はランスと盾を手に、逃げも隠れもせず堂々と猪に歩み寄っていく。
猪はグッと力を溜めるように頭を低くして前足で地面を掻いた後、バネに弾かれたような勢いで駆け出した。
「ふん!」
バスチアン先輩は突進してきた猪を盾で殴るように受け止める。
顔面を盾で殴られた猪が仰け反り、喉を無防備に晒す。
バスチアン先輩はその隙を逃さず、猪の喉をランスで貫く。
急所を貫通する一撃を食らい、猪は鮮血を吹き出して絶命した。
「すげぇ……」
アウラウダが思わず呟く。
僕も声には出さないものの、アウラウダと同じ驚きを感じていた。
(バスチアン先輩、ダークマター職人だけど戦闘能力高いな)
僕がそんなことを思っていたのは内緒だ。
領主様から自炊を命じられて、この世の終わりみたいな顔をした人とは別人のようだよ。
表情もキリッとしていて、かっこいい。
バスチアン先輩のランスさばきは無駄が無く、洗練された動作に見えた。
「次は俺だな」
2頭目の猪を見つけると、シャスール先輩が進み出る。
猪は、歩み寄るシャスール先輩に気づくと襲いかかってくる。
シャスール先輩はグッと踏ん張る体勢をとり、突進してくる猪の勢いを利用して、眉間に大剣を突き刺した。
その表情は気迫があり、普段とは別人のように見える。
凛々しくてかっこいいんだが……
「残念、こいつは童貞じゃない」
……倒した後に、猪の股間をチェックするのはやめてほしい。
「いやそれ確認しなくていいから」
バスチアン先輩が、僕たちを代表してツッコミを入れた。




