sideウォルクリス04
目が覚めたら、違う部屋に来ていた。
騎士団の宿舎でも、翔太郎のアパートでもない。
古い木の板で覆われた天井がある部屋だ。
(そういえば、住み込みで働くんだっけ)
起き上がってみると、ベッドではなくて、床に直接布団を敷いている。
床は「フローリング」ではなくて、草でできた「畳」になっていた。
(手紙?)
枕元の目覚まし時計の横に、何か日本語で書いたメモが置いてある。
『鹿は追い払うだけ。狩ってはいけない』
翔太郎からの手紙……というか、指示メモだ。
彼の知識によれば、日本で野生の鹿を狩猟・捕獲するには、免許や登録が必要らしい。
僕の村みたいに、誰でも狩れるわけじゃないのか。
(いつもの翔太郎の身体よりも、軋む感じが減ってる)
スッキリ目覚めて、ふと気づいた。
手を握ったり広げたりして、関節の軋みを確認する。
翔太郎の手は、寝起きは少し強張っているのに、今は普通に動く。
いつもより調子が良いみたいだ。
(「温泉効果」っていうのか。父さんが翔太郎よりもシャキシャキ動けるのは、毎日温泉に入っているからかな?)
翔太郎は、1ヶ月間毎日温泉に入れることを喜んでいたみたいだ。
寝起きがこんなにスッキリしたのは、昨夜温泉にゆっくり浸かったかららしい。
(とりあえず、腹筋しとこう)
僕は五百回ほど腹筋した後、朝の見回りに出かけた。
翔太郎の新しい勤務地は、山や森に囲まれた田舎だった。
勤務先は町はずれの林の中にある宿屋で、見回りは宿屋の敷地や近くの林。
歩いていると、辺りに漂う空気が清々しくて気持ち良い。
「おはようございます。巡回が終わったら、休憩室で朝ごはん食べて下さいね」
「おはようございます。ありがとうございます」
枝垂桜の根元で、女将さんが掃き掃除をしている。
あの木を鹿の食害から守ることが、翔太郎に与えられた最優先任務だ。
「鹿はいつも決まった時間、朝は10時くらいに来るんです。来たら追い払ってやって下さいね」
「はい」
女将さんの言葉に、僕は頷いた。
追い払うだけでいいのか。
僕の村では、畑を荒らす鹿は狩って食べてたけど。
狩れる人がいないと、増えちゃって大変そうだね。
見回りの後に休憩室へ行くと、テーブルの上にサンドイッチが置いてあった。
席に着いて、被せてある「ラップ」をはずして、1切れ手に取って口に運ぶ。
(パンがフワフワで柔らかくて美味しい!)
このパンが「食パン」と呼ばれるものだということは、翔太郎の知識で分かる。
でも、こんなにフワフワのパンは、僕の世界には無い。
このパン、向こうでも食べられたらいいのにね。




