ep38:卵粥に胡麻油を少々
異世界で目覚める五度目の朝。
爽やかに起きた僕は、枕元のメモに気づいた。
記憶が流れ込んでくる。
相部屋で暮らすウォルクリスは、同居人のアウラウダに、日本語で手紙を書いて枕元に置くことを「イリキーヤ様に神託を貰うおまじない」と言っていた。
日本語が読めないアウラウダは信じ切っていたようだ。
手紙にはこう書いてある。
『炊き込みごはん美味しかったです。朝食は卵粥を用意しています』
若干業務連絡みたいになってるが、まあいいか。
僕は洗面所で顔を洗った後、クローゼットに入れているコックコートに着替えた。
流れ込んでくる記憶によれば、コックコートは毎日着るものだから、昨日ベルさんから追加で二着渡されたらしい。
王都へ行くときに持っていくように言われていた。
「洗浄の生活魔法が使えると便利よ」
ベルさんは、そう言って生活魔法を使ってみせた。
汚れたコックコートを水の渦が包み、綺麗に洗い上げていく。
洗濯機の中のような水の渦に洗われて、コックコートは綺麗になった。
「ウォルくんも練習すればできるようになるよ」
そう言われて、ウォルクリスは魔法習得の期待に胸を膨らませているようだ。
正規の騎士だった父親が、身体強化の魔法を使うところを見た記憶も蘇る。
(異世界といえば魔法だよな。身体強化もいいけど、攻撃魔法もできたらいいなぁ)
この世界では、素質による強弱はあるものの、学べば魔法を使えるようになるらしい。
魔法が覚えられるかもという期待に、オッサンの若さと共に消えていった中二病が再発しそうだ。
ウォルクリスが用意していた卵粥は、白粥にとき卵を回し入れる、日本の卵粥と似たものだった。
味付けは、あっさりした塩味。
僕は仕上げに鰹の血を粉末のまま少量加え、胡麻油を少々垂らして風味付けをした。
卵スープに胡麻油を少々混ぜると、卵の優しい味わいに香ばしい風味が加わり、風味豊かで食欲をそそるコクのある味わいになる。
僕はこの味付けが好きで、卵スープや卵とじ系の料理には胡麻油を入れるのが常だった。
卵粥が仕上がる頃に、いつもの三人が入ってくる。
彼等は厨房に漂う香りに鼻をひくつかせた。
「おはよう。今日の朝メシは何?」
「卵粥だよ」
「香ばしい香りがするね」
「ル・サン・ドゥ・ボニートとユイル・ドゥ・セザムを少し混ぜてみたんだ」
「村で作るやつより美味そう!」
「もう出来上がってるから、盛り付けを手伝って」
「「「おっけー」」」
四人で盛り付けとカウンターへの配膳をするのも、すっかり慣れた。
アウラウダたちはパスタ作りができるようになり、お粥や雑炊はもともと作れる。
僕が王都へ行く間は、調理を三人に任せよう。




