ep34:VIPな人
会食が進み、そろそろパスタの説明も不要になった頃。
一人の令嬢が、僕に歩み寄ってきた。
「わたくしを覚えてらっしゃる?」
艶やかな銀の髪をアップに結い、整った顔立ちを程よいメイクで華やかにした少女。
紫水晶と同じ色の瞳を持つ美少女が話しかけてくる。
見た目の年齢は、この世界での成人間もない15歳くらいかな?
彼女が誰かは、すぐに分かった。
街でひったくりに遭っていた被害者の女の子だ。
「ヴィオレット様ですね」
「正解ですわ」
僕が答えると、彼女は満足そうに微笑む。
社交用の豪華な装飾が施された青色のドレスを着ているから、街で会ったときよりも高貴なオーラを感じる。
彼女と話し始めたら、周囲の人々の視線が集まるのを感じた。
「これは、こういう場でこそ役立ちますわよ」
ヴィオレット様は僕の首を見て何かに気づき、そっと手を伸ばす。
コックコートの襟元から引っ張り出されたのは、御守り代わりに首にかけていたペンダントだ。
こういう場って、貴族の集まりのことだろうか?
銀色に輝くペンダントが現れた途端、周囲がザワついた。
加護もちとはいえ、平民の子供が高価な銀製品を身に着けていたら、驚くのも無理はないかな。
(なんか、めちゃくちゃ驚かれててる?)
何か聞きたそうな顔をしながらも、みんな話しかけてこない。
ウォルクリスが貴族に詳しくないので分からないけど、何かルールがあるのかもしれない。
「わたくしも、貴方が開発した料理を広めるお手伝いをしてもよいかしら?」
「はい、是非お願いします」
僕が答えた途端、周囲がどよめく。
ヴィオレット様は、かなり高位の貴族なんだろうか。
「では、近いうちに城へ招待しますわ」
ヴィオレット様は微笑むと僕から離れていき、領主様に歩み寄る。
領主様も僕たちのやりとりに気づいていたらしく、目を丸くして驚いていた。
「リシュ伯、あなたの料理人を借りてもよろしくて?」
「で、殿下、その者の身分は平民で見習い騎士ですが、よろしいのでしょうか?」
「まあ、貴方がそれを言うの? 料理の腕が良ければ身分は関係ないというのが貴方の理念ではなくて?」
「は、はい。その通りでございます」
「わたくしも同じ理念よ」
二人の会話を、僕は呆然として聞いていた。
話し方から、ヴィオレット様の方が地位が高いのが感じられる。
っていうか今、「殿下」って言った?
高位貴族とかいうレベルじゃない?
殿下っていったら、王家の人だよね?
「では、彼のスケジュール調整をお願いね」
「か、畏まりました」
なんか、驚いてる間に話がまとまったような。
料理を広めるのは地方レベルでもいいってイリキーヤ様はいってたけど。
これ、国家レベルになるんじゃない?




