ep31:宴会の裏側
「じゃあ、次は食の戦場よ」
隣からベルさんの声がして、僕は目を開けた。
イリキーヤ様との会話にかかった時間は、こちらでは数秒程度だったらしい。
「食の戦場?」
「来れば分かるわ」
キョトンとする僕の手を掴み、ベルさんが力強い足取りでお城の廊下を歩き出す。
すれ違う侍女や侍従たちが、ベルさんを見ると廊下の脇へ避けて頭を下げる。
この城での料理長の地位は、やはり高いらしい。
「みんな! 助っ人を連れてきたわよ!」
ベルさんがいつもより大きな声を出して、扉を開けた場所はいつもの厨房。
今までここで見かけたのはベルさんと領主様と侍女くらいだけど。
厨房内は、いつもと違って人が多く騒々しい。
「スープパスタの微調整は彼に任せて! 開発者だから!」
ベルさんが言った途端、厨房にいた人々が一斉に僕を見る。
コックコート姿の男女合わせて20人くらい、今まで見たことがない人たちだ。
僕はビクッとして後ずさった。
「おお、君がこの素晴らしい料理の開発者か」
「イリキーヤ様の加護を受けているんだって?」
コックコート姿の人々が、作業の手を止めずに話しかけてくる。
厨房内では様々な料理が作られていて、その中に僕がベルさんに教えたものもあった。
「自己紹介は、宴の後でな」
「とりあえず、よろしく頼むよ」
料理人たちが、自己紹介する余裕が無いのは見れば分かる。
彼等は担当料理の準備に忙しそうだ。
「じゃ、頼んだわよ、ウォルくん」
「は、はい」
ベルさんに厨房の中へ押し戻され、僕は観念してスープの微調整にかかる。
スープはあっさりした塩味のものと、コクのあるトマトベースの2つだ。
味は僕が作るものよりも少し薄い。
僕が塩やスパイスを足していると、背後でベルさんの大声が響く。
「これ焼けたから持ってって!」
「じゃがいも(ポムドテール)足りないよ、もっと持ってきて!」
食の戦場とは、これか。
多くの人が慌ただしく動き回り、大声が響く。
この城、こんなに料理人いたっけ?
普段見たことがない人ばかりだ。
ベルさんはその中で指揮官のように指示を出している。
「ウォルくん、どう?」
「スープOKです!」
指示の合間に、ベルさんが僕の様子を見に来る。
その頃には、スープの微調整は完了していた。
「次はピラフの味を確認して」
「ピラフOKです」
「次はきのこソースを」
「きのこソースOKです」
その後は、ベルさんから指示されるままに、次々と味見して微調整していく。
どうやら、僕がベルさんに教えた料理が全て作られているらしい。
再現度はかなり良い。
味が控えめなのは、後から調整しやすいからだろう。
作っているのは臨時で来た料理人たちで、ベルさんは皆を指揮する立場、僕は自分が開発者とされる料理の確認と調整を担当することになった。




