ep27:朝粥に鹿肉の佃煮を添えて
異世界で目覚める四度目の朝。
もはや身体の軽さに違和感を覚えたりしない。
僕はこの奇妙な現象に慣れてしまっていた。
しかし、転生でも転移でもないこの現象は何なんだろう?
(ん? 日本語?)
起き上がってベッドサイドテーブルを見ると、何か書いた紙きれが置いてある。
その文字は、自分の筆跡と似ていた。
『燻製、みんなで食べました。美味しかったです。ごめんなさい』
どうやらウォルクリスから僕に宛てた手紙のようだ。
(そうかそうか、美味かったのか。でも日本の鹿を狩るのは、やめとけよ)
僕はそっと心の中で呟く。
流れ込んでくるウォルクリスの記憶は、美味しいものを食べて満足そうな騎士団メンバーの笑顔だ。
しかし、ふと気になったのは、何か謝っているっぽい一言。
嫌な予感がしつつ、洗面所で顔を洗った後、宿舎の調理場へ向かう。
(全部食ったんかーいっ!)
宿舎の燻製庫から、一昨日入れておいた物が無くなっている。
ここにあった燻製は、騎士団の皆に食べさせるためにベルさんと二人で作ったものだ。
だからみんなが食べるのは、間違ってない。
ウォルクリスが燻製を美味しくいただいた記憶も鮮明に残っているのが、なんか虚しい。
(……僕の分も残しといてくれよ……)
ションボリしながら、僕は朝食の準備を始めた。
今日の朝食は長粒米で作った白粥で、お好みで入れられるように塩漬けの肉や野菜が用意されていた。
白粥を温めるだけで簡単に提供できる食事だ。
(お、生肉は少し残ってるな。こっちは生姜か。これで何か作ろう)
僕はチルドルームみたいに涼しい食糧庫から鹿肉と生姜を取り出して、細かく刻む。
粗みじん切りにした鹿肉と生姜を、胡麻油で炒める。
黒砂糖と鰹の血でコクのある甘辛い味に仕上げる。
鹿肉と生姜の佃煮っぽいものができた。
「お? なんか美味そうな匂い!」
いつものお手伝いトリオが入ってきた。
彼等に盛り付けと配膳をしてもらおう。
「今日は白粥だよ。好みで具を入れてもらうから、小皿に入れて渡して」
「「「はーい」」」
洗い物や手間を減らすなら、薬味を器に入れて自由に取ってもらう方がいいんだけど。
【僕】の記憶が危険を告げている。
昨夜は夕食をビュッフェスタイルにして鹿肉パーティをしたが、アホみたいに食うのでおかわり用意するのが大変だったらしい。
体育会系の腹ペコ野郎どもに薬味を自由化したら、鹿肉と生姜の佃煮をゴッソリ取られる予感しかない。
「おぉっ?! これは鹿肉?」
「甘辛い香り……白粥に合いそうだ」
ウォルクリスが昨夜作っておいた白粥は、日本のものとよく似ている。
米と水だけを使った味付けのないシンプルなお粥は、佃煮との相性バッチリだろう。
料理が全員に渡され、見習いメンバーの分を確保した後は、残りの白粥と佃煮と漬物をカウンターに出して自由化しよう。
「まだあるので、おかわり必要ならどうぞ」
「おお!」
「食べる食べる!」
予想通り、カウンターに置いた残りは、おかわり争奪戦になった。




