ep22:幸福の木
初鹿さんとの打ち合わせを終えた後。
僕は家に帰り、30日間の住み込み勤務の準備を始めた。
長期間自宅を留守にすることには慣れている。
持っていくものは、旅行の準備程度でいい。
僕は古びたキャリーケースに、1週間分の衣類、歯ブラシ、歯磨き粉、うがい用のコップを詰めた。
バスタオルやフェイスタオルは、民宿の風呂場にあるものを使えばいいらしい。
ボディソープやシャンプー類も、お客と同じように使っていいとのことだった。
アメニティとして歯ブラシや歯磨き粉もあるそうだが、自分の愛用品を持っていく。
(……っと、そういやコレ、植え替えるか)
ウォルがうっかり割ってしまった鉢植えが、まだそのままになっている。
新しい鉢を買いに行くのは面倒なので、僕は家にあるもので済ませることにした。
鉢底皿は無事なので、そのまま使える。
僕はゴミ捨て前の袋から、カップ麺の空き容器を取り出した。
空き容器は悪臭防止のため水洗いしているが、洗剤を使って念入りに洗う。
洗い終えたカップ麺容器の底に、プラスドライバーをプスプス刺して穴を開ける。
穴を開けたカップ麺容器を鉢底皿の上に置き、観葉植物用のソイルと植物本体をセットすれば完了だ。
(これでよし。あとは自動給水器をつけとこう)
30日間留守にするので、鉢植えには給水ロープと2Lの水ボトルをセットした。
幸福の木と呼ばれるドラセナは亜熱帯エリアで自生している植物だが、乾燥した場所でも育つので2リットルくらいの水で足りるだろう。
荷造りと鉢植え対策が済んだ頃。
居間のテーブルに置いたスマホがピコンと鳴った。
LINEのトークリストを見ると、鈴村さんからメッセージが入っていた。
『冷凍庫の片付けなら協力するよ』
何を言いたいのかすぐに分かる。
彼女は、僕が冷凍庫にストックしている作り置きオカズがお目当てだ。
以前、長期の住み込み勤務の際に、冷凍庫の作り置きをあげたことがある。
そのオカズが気に入ったようで、たまにリクエストされることもあった。
『助かる。あとでそっちへ届けに行く』
と返信しておく。
八百屋から貰った野菜や、犯人逮捕のお礼に貰った果物もまだ鮮度がいいし、鈴村さんにあげとこう。
バナナだけはウォルクリスが気に入っていたから、残しておくか。
◇◆◇◆◇
鈴村さんが住むアパートは、僕の自宅から徒歩五分の近所にある。
僕は保冷ボックスに冷凍品と保冷剤を、スーパーのビニール袋に野菜と果物を入れて、鈴村さんのアパートまで届けに行った。
「じゃあこれ全部貰って」
「えっ? いいの? こんなに?」
「商店街の人から貰ったんだけど、次の職場では自炊しないから」
「そっかぁ、ありがとう!」
鈴村さんは、思ってた以上のお裾分けに驚いている。
八百屋から貰った大根と胡瓜は、浅漬けにしておいた。
茄子は素揚げしてものを冷凍保存してある。
果物はリンゴやオレンジやキウイ、そろそろ食べ頃でいい香りがしていた。
「これが豚肉と里芋の煮物で、これは鶏肉と葱の炒め物、で、こっちは牛すじ肉の煮込みだよ」
「美味しそう~! っていうか鷹野くん、オッサンなのに女子力高すぎ!」
僕は保冷ボックスから冷凍オカズを取り出して、鈴村さん宅のダイニングテーブルに並べる。
鈴村さんが、喜びながらツッコミを入れていた。




