ep20:感謝状と新聞記事
目が覚めたら、錆びついたオッサンの身体に戻っていた。
このギシギシ感はともかく。
なんか筋肉痛が増えてるような?
「イテテ……」
起き上がりながら、小声で呟く。
鳴り続けるアラームを止めて寝室の置時計を見れば、火曜日になっている。
やはり異世界で1日過ごすと、こちらでも1日経っているらしい。
月曜日にこの身体に入っていたウォルクリスの記憶が、僕の記憶に加わる。
彼は月曜日にこちらで目覚めて、僕の代わりに仕事へ行ったらしい。
それはともかく。
どうやらウォルクリスは、この身体で朝の素振りをやったらしい。
剣なんか無いから、傘を振っていたようだ。
(おいおいおい、オッサンの身体を酷使するのはやめてくれ)
剣術の素振りはほぼ全身運動で、おかげであちこち筋肉痛になっている。
この身体を鍛えてどうするんだ。
しかも。
素振りをしていた居間にある鉢植え、引っかけて落としたな。
割れた植木鉢ごと、スーパーのビニール袋に入れて置いてある。
「ごめんなさい」って書いたメモ用紙が添えられていた。
異世界の少年なのに、日本語で書いてる。
筆跡は、僕そっくりだ。
(まあ、外で素振りして誰かに見られるよりはマシか……)
僕はボリボリと頭を搔いて気を取り直す。
それから、居間の片隅に置かれた書状入れを見て、増えた記憶に驚く。
書状入れの中身は、感謝状。
ひったくり犯人の現行犯逮捕に協力して、被害を防いだことで表彰されたらしい。
コンビニ店員の青年も一緒に。
恐る恐る玄関ポストから新聞を取り出して見れば、写真付きでしっかり掲載されている。
(うわぁ、外に出たくねぇ!)
できれば、人々の記憶から記事の内容が消えるまで、引き篭りたい。
僕が「こっち」にいるときに、感謝状を渡されなかったのは幸いというべきか。
今思えば、商店街で肉や野菜を貰うだけで済んで良かったかもしれない。
仕事をサボるわけにはいかないので、観念して支度をする。
今日は事務所に出勤して、派遣先を決める日だ。
自宅から徒歩で行ける勤務地があればいいなぁ。
◇◆◇◆◇
警備会社の建物に入ると、入口の受付に鈴村さんが座っている。
彼女は僕の顔を見ると、意味深な笑みを浮かべた。
「いらっしゃい鷹野くん、あなたに指名依頼よ」
「なにそのギルド受付嬢みたいな台詞」
鈴村さんは僕と同じでラノベ読者だ。
異世界ファンタジー好きとはいえ、ギルド受付嬢のフリをするのは初めて見た。
「いやほんとに指名がきたのよ、警備の依頼」
「マジで?!」
鈴村さんが、ややテンション高めで言う。
派遣の仕事なので、クライアントに気に入られて指名される人はたまにいる。
しかし今まで、僕みたいな冴えないオッサンを指名するクライアントはいなかった。
指名した人は、一体どこの誰だろう?




