ep19:宿舎の大浴場
領主様のパスタを作り終えた後。
宿舎へ帰った僕に、見習いメンバーが声をかけてきた。
「風呂行くぞ、風呂!」
「今日は一番湯に入れるよ」
「早く行こう」
リシュ領は食材の宝庫として知られる一方で、温泉地としても有名だ。
豊富に湧き出る源泉を、かけ流しで提供する宿屋が多かった。
嬉しいことに、騎士団の宿舎の大浴場も天然温泉である。
といっても、湧き出たばかりの新鮮な温泉を浴槽に絶えず注ぎ続けるわけではない。
騎士団が風呂を使うのは仕事を終えて帰る夕方から就寝前の夜までなので、昼間はお湯が抜かれて空っぽになっている。
夕方に風呂掃除当番が浴槽や洗い場を掃除してから浴槽に湯を張るので、その直後の入浴を一番湯と呼ぶらしい。
「はぁ~、この心地よさ。一日の疲れが吹き飛ぶねぇ」
「なんだよウォル、オッサンみたいなこと言って」
身体を洗い終えて浴槽に浸かり、僕が思わず呟いたらラフォルムがツッコミを入れた。
だってしょうがないじゃない。今の中身オッサンなんだもの。
……とは言えないので、笑ってごまかす。
温泉なんて、日本での生活では滅多に入れない。
温泉地での警備があった帰りに入る程度だ。
「温泉に毎日入れるなんて、幸せだなぁ」
「何言ってるんだよ、村にいた頃だって毎日入ってたじゃないか」
僕の呟きに、アウラウダがツッコミを入れる。
【僕】たちの故郷も山に囲まれた温泉地で、村の共同浴場は天然かけ流し温泉だ。
しかも、内風呂と露天風呂がある。
いいなぁ。村の温泉も入ってみたい。
「そういえば、ウォルって時々別人みたいになるよね」
「え、そう?」
ティミッドに言われて、僕は内心ギクッとした。
料理はイリキーヤ様の加護ってことに(ごめんなさい)してるけど。
その他のことになると、ごまかす言葉が思いつかない。
「もしかして、イリキーヤ様の使徒が乗り移ってたりするかも?」
「「えぇっ?!」」
ラフォルムのトンデモ発言に、アウラウダとティミッドが驚く。
使徒ではない。ただのオッサンだ。
そう言ってやりたいが、今は苦笑するだけに留めた。
「使徒って神様の使いだろ? ウォルからそんな神々しい雰囲気感じないぜ」
僕の代わりに、アウラウダが否定する。
ティミッドもウンウンと頷いた。
オッサンに神々しさを求めないでくれ。
◇◆◇◆◇
風呂上り、僕はベッドに寝転がりながら考える。
今夜ここで眠って起きたら日本の自分の身体に戻るのだろうか?
僕がこっちにいる間、ウォルクリスは僕の身体に入ってるのか?
異世界転生とは、なんか違う。
僕と【僕】は、一体どうして入れ替わるのだろうか?




