ep165:エクランの街と領主の城
エクランの街に並ぶ家々は、どれも白い漆喰の塗り壁に木組みが浮き出た構造の建物だった。
急勾配の切妻屋根は、冬の積雪から家を守るためかもしれない。
白の他に青、黄色、赤などカラフルに塗られた外壁をもつ家が多い。
家々の窓辺には鮮やかな花々が飾られて、街の雰囲気に華やかさを添えていた。
街の中には運河が流れていて、澄んだ水面に岸辺の家々を映す。
運河の水は、街の近くにあるエクラン湖が水源だ。
エクラン湖は、湖底まで見えるほどの透明度を誇る湖だった。
「フルール王家の皆様ですね。どうぞお通り下さいませ」
街の奥には、大型の馬車も余裕で通ることが可能な地下道への入口がある。
見張りの兵士は、御者が差し出す通行証を見るとすんなり通してくれた。
地下道は街や湖の下を通り抜け、領主館へと繋がるものだった。
……館というか、どう見てもお城だけどね。
馬車は地下道を通り、お城の前の広場で停まった。
「ありがとう。君のおかげで命拾いしたよ」
キュリユーズ様が、すっかり回復した様子で馬車から降りてきて、こちらに笑みを向ける。
血で汚れていた顔や服は、侍女たちが洗浄魔法で綺麗にしてくれたらしい。
「クルールが気づいてくれたおかげですよ」
「クルールもありがとう」
「ブルルッ」
広場で下馬した僕は、傍らに佇むクルールの顔を見上げて言った。
キュリユーズ様もクルールに視線を向けて微笑む。
クルールが鼻を鳴らして応えた。
「眩暈や立ち眩みは無いですか?」
「うん。もう歩けるよ」
ペリアの葉(紫)の効力に内心驚きつつ、僕は訊いてみた。
答えるキュリユーズ様は、ほんの少し前まで貧血状態だったとは思えないくらい顔色が良い。
「叔母様たち、中庭でお茶を飲んで一休みしませんか?」
「坊ちゃま!」
キュリユーズ様は、馬車の中にいる王妃様たちに声をかける。
その直後、城内からメイド服を着たポニーテールの女性がスッ飛んできた。
「ただいまアンキエ。中庭でお茶を淹れてくれる?」
「そんなことをしている場合ではございません。旦那様がお怒りです」
「……えっ?」
「執務室へ急ぎますよ!」
呑気な様子のキュリユーズ様の手を、アンキエと呼ばれた若い侍女が掴んで引っ張っていく。
先輩騎士たちがポカンとしながら、侍女に引きずられるように城内へ入っていく少年を見送った。
「お騒がせしました。皆様の接待は私カルメが担当致します」
黒髪ボブの侍女カルメが、二人と入れ替わりに城の中から出てきて一礼する。
「旦那様とキュリユーズ様のお話が済むまで、中庭でお茶はいかがでしょうか」
カルメは茶器を乗せた盆を持っており、綺麗な花が咲く庭園に一同を誘う。
おそらく、当主様は令息を説教するのに少し時間がかかるんだろう。
王妃様たちには、お茶しながらゆっくり待って頂く方が良さそうだ。
「そうね。急ぐわけではないし、ノンビリ待つわ」
馬車の中から、王妃様が応える。
先輩騎士のデュルトさんが馬車に歩み寄り、馬車から降りる王妃様に手を差し伸べた。
続いてエフォールさんが馬車に歩み寄り、ヴイオレット様をエスコートする。
三番目が僕で、リュンヌ様をエスコートする。
最後が幼い王子様の護衛騎士になったエバイユさんだが、エスコートとは違う。
エバイユさんが両手を差し伸べた途端に、無邪気に笑うヴェルデュール様が腕の中に飛び込んだ。
王族の女性をエスコートする騎士たちと、未来の国王を抱っこする騎士は、甘い花の香り漂う中庭の東屋へと歩いていった。




