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オッサンと少年の入れ替わり。オッサンは異世界で美味い料理を作り、少年は日本で無自覚に色々やらかす。  作者: BIRD


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ep14:異世界のひったくり犯

 魚屋で食材をサービスしてもらった後。

 港から街の中へと歩いていたら、女性の甲高い叫び声が聞こえた。


「泥棒! 誰か捕まえて!」


 ほとんど悲鳴に近い必死の叫びだ。

 声がした方を見ると、ハンドバッグを小脇に抱えた人相の悪い男が走って来る。


(……おいおいおい。何だこの既視感溢れる展開は……)


 僕は半目になって心の中で呟く。

 まるで、ウオルクリスが日本の商店街で経験したことを再現しているかのようだ。


 しかし、あちらとは少々事情が違う。

 走ってくる男はナイフを持っていた。

 刃物を恐れて、通行人が道の左右に逃げている。

 僕の隣で、ベルさんが怯えたような顔で自分のショルダーバッグを抱き締めた。


「どけどけぇっ! ブッ殺すぞ!」


 男はナイフを振りかざしながら、一直線にこちらへ向かって走ってくる。

 脅せばみんな逃げると思ってるんだろう。


「……っ!」


 ベルさんが恐怖で固まる。

 僕は彼女を抱き寄せて庇いつつ、走ってきた男に足払いをかけた。

 顔面から勢いよく転倒した男の後頭部に、追撃のかかと落とし。


「ンゴッ!」


 男は変な声を漏らした後、脱力して動かなくなった。

 ベルさんも街の人々も、呆然としながら倒れた男を見つめている。

 一人の女性が、人垣をかき分けるように進み出てきた。

 貴族の令嬢っぽい、ドレス姿の女の子だ。

 艶やかな銀髪と、濃い紫色の瞳が美しい。

 多分彼女が被害者なんだろう。


「これは、お嬢様の鞄ですか?」

「ええ、その男が私から奪ったものですわ」


 僕は男が落としたハンドバッグを拾い上げて、令嬢に声をかけてみた。

 令嬢はホッとした様子で、こちらに歩み寄ってくる。


「どうぞ」

「ありがとう。あなたの名前を教えて下さる?」

「ウォルクリスです」

「わたくしはヴィオレット。鞄を取り返してくれたお礼に、これを差し上げますわ」


 令嬢はフルネームは名乗らなかった。

 高貴な身分なのはバレバレだけど、一応お忍びなんだろうか?


 彼女は鞄の中からメダル型のペンダントを取り出して、僕に差し出す。

 銀のメダルには紫色の宝石が五枚の花弁のように嵌め込まれていて、花の周囲には長楕円形の葉が彫刻されている。

 金属がとても高価なこの世界で、平民には贅沢過ぎて恐れ多い品だった。


「こんなに高価なものを頂くわけには……」

「これはわたくしの信頼の証ですの。あの男に盗まれていたら悪用されるところでしたわ」


 遠慮してみたのだけど、圧しが強かった。

 ヴィオレット様は問答無用な感じで、僕の首にペンダントをかける。

 となりで見ているベルさんが、僕以上にアワアワしていた。


「では、わたくしはそろそろ宿に戻りますわ」


 ヴィオレット様はふわりと微笑むと、迎えにきた侍従に手を添えられて馬車に乗り込む。

 大通りをゆっくりと進む馬車は、貴族用の高級ホテルが並ぶ方角へ去っていった。


「ウォルくん……」


 馬車を見送りながら、ベルさんが小声で言う。


「そのペンダント、売らないでね」

「信用の証って言ってましたよね。そんな重要なものを売ったりしませんよ」


 なんか忠告したそうなベルさんに、僕は苦笑して答えた。

 ラノベを読みなれた僕の勘が告げている。

 あの人、貴族の中でもかなり高位の身分かもしれない。


 想定外な出来事に遭遇したけれど、街の露店や商店には、美味しそうなものがたくさんあって楽しかった。

 お給料が入ったら、露店の串焼きとか買って食べようかな。

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