ep15:蛸とにんにくのピラフ
買い物を終えて帰ったベルさんは、そのまま僕を連れてお城の厨房へ向かった。
僕もお城に入っていいのだろうかと思ったんだけど、普通に通されている。
貴族の屋敷に平民が顔パスで入れるって珍しいのではなかろうか?
とりあえず、調理を始めよう。
魚屋から貰った蛸は塩もみなどの下処理が済ませてあり、すぐ調理に使えそうだ。
「食糧庫から持ってくるものはある?」
「リ・ロン(長粒米)、ブゥール(バター)、セル(塩)、ポワーヴル(胡椒)、アイユ(大蒜)、アイユ・デ・ウルス(行者大蒜)をお願いします」
前回と同じく、ベルさんが食糧庫から使う食材を持ってきてくれた。
アイユは山菜のアイユ・デ・ウルスに近い種の野菜で、地球のニンニクにそっくり。
農家で栽培されているので、【僕】の記憶にもある。
ブゥールはバターに似た乳製品で、茶色い毛並みの牛に似た草食獣ヴァッシュの乳から作られる。
ヴァッシュはウォルクリスの実家でも飼われていて、バターを作るのを手伝った記憶もあった。
「今日は何を作るのだ?」
厨房の調理台で蛸を小さめのぶつ切りにしていると、領主様がやってきた。
彼はまたメイドに椅子を持ってこさせて、定位置みたいに壁際に座る。
今日もここで完成まで見学して、できたてを食べるつもりらしい。
「プールプ(蛸)とアイユ(大蒜)のピラフを作ります」
「ふむ。ベルもしっかり見て覚えなさい」
「畏まりました」
今回は先に領主様とベルさんの分を作ることにしよう。
というか、そうさせるために、ベルさんが僕を宿舎に帰らせずに連れてきたんだろう。
騎士団のまかないよりも先に作りに来たからか、領主様の機嫌が良い感じがする。
アイユを薄くスライスする僕を、領主様がじっと見つめていた。
この国の米はタイ米と同じ長粒米で、粘り気が少なくパラパラした食感と香ばしさがある。
べたつかない食感は、ピラフやチャーハンに向いていた。
日本の米とは違い浸水が不要で、お湯で茹でるだけで柔らかくなる。
洗わなくても使えるが、僕は一応サッと軽く洗ってから使用することにした。
料理用油を中華鍋みたいな物に少し入れて熱し、蛸と大蒜を炒める。
長粒米を入れて具材となじむまで炒め合わせる。
水で溶いたル・サン・ドゥ・ボニート(鰹の血)を注ぎ入れる。
落し蓋をして、弱火で7~10分茹でるように炊く。
炊きあがったら火を消して、15分そのまま蒸らす。
中華鍋の中でご飯と具を混ぜ、器に盛り付けて、刻んだアイユ・デ・ウルス(行者大蒜)を散らす。
「ほう、リ・ロンを主食として使うのか。珍しい」
領主様が言うように、この国では米は主食ではなく、野菜のような付け合わせとして使われている。
雑炊は、ウォルクリスの故郷以外では食べられていない珍しい料理らしい。
「そういえば、ウォルくんの故郷はリ・ロンを主食にする地域だったわね」
ベルさんは博識で、郷土料理も知っているみたいだ。
さすが長寿のハーフエルフ……って言うのは、やめておこう。
「うむ。美味い。プールプのプリッとした食感と旨味、ブゥールのコク、ル・サン・ドゥ・ボニートの香ばしさ、アイユの風味が見事に合わさって食欲をそそるな」
勢いのいい食べっぷりで完食した後、領主様が食レポしてくれた。
世界が違っても、ガリバタ醤油は強力な組み合わせで食欲を刺激するようだ。




