ep143:森の獣の間引き
兄や姉が卵を取りに行くときに身体強化を使った時点で、お気づきの方もいるだろう。
ウォルクリスの家族は、村でも評判の脳筋一家だった。
平民でありながら侯爵令嬢の護衛騎士を務めたり、辺境で騎士隊長になったりした父の遺伝子は、子供たちに容姿だけでなく運動能力も受け継がせている。
この兄妹、魔法の才能には恵まれなかったが、武器を扱うセンスは素晴らしい。
体格も良いので、戦闘能力はかなり高そうな気がする。
早春の森の中。
落葉樹の枝が小さな芽に覆われる頃。
草木の香りが清々しい森の中で、子供たちは狩りをしていた。
「ワンワンワンッ!」
「エネ! そっちへ行ったぞ!」
「任せて!」
猟犬が獲物を追い立てる。
勢子を務めるエリチエルが、待子を務めるエネフィーユに報せた。
茂みから飛び出した茶色い生き物を、エネフィーユが放った矢が貫く。
黒髪美少女が弓矢を構えて放つ姿は、凛としていてかっこよかった。
ウォルクリスの記憶によれば、エネフィーユの弓術は村一番とまで言われているらしい。
「冬明けなのに、あんまり痩せてないわね」
慣れた手つきで獲物の血抜きをしながら、エネフィーユが呟く。
見事に一撃で仕留められたのは、野生のうさぎ(ラパン)だ。
野生のうさぎは、正しくは「野うさぎ(リエーヴル)」なのだが、人々はうさぎの総称として「ラパン」と呼んでいる。
うさぎの繁殖力が凄まじいのは地球と同じで、定期的に間引きをしないと森林も農作物も大ダメージを受けてしまう。
特に今の時期、植えたばかりの苗や芽吹いたばかりの森の草木を大量に食われたら、収穫に影響が出る。
そんなわけで、長男エリチエルをリーダーに、五人の子供たちはうさぎ狩りに来たのだった。
(こっちの生き物はリシュ領のより小さいな)
リシュ領とのサイズの違いを感じつつ、僕も別の茂みから飛び出したうさぎに矢を放つ。
弓道部時代に使った和弓とは、長さや重さなどが違う異世界の弓だけど。
静から動への動きがゆるやかで固定された的を狙う弓道とは、扱いがかなり違うが割と当たる。
この弓を使い慣れたウォルクリスの記憶や経験あればこそかもしれない。
僕は狩りとは無縁の日本人だけど、異世界生活一年ですっかり慣れてしまった。
仕留めた獲物は、毛皮も肉も骨も、無駄なく使わせてもらう。
うさぎ肉は柔らかくクセが少ない淡白な肉質で、鶏肉に味や食感が似ている。
骨からは良い出汁がとれるので、骨付き肉を煮込んでシチューにすると美味い。
……ところで。
「こっちも獲れたよー!」
「見て、毛皮を傷つけずに狩れたの」
うさぎをぶら下げて、得意気にこちらへ向かって歩いてくる子供たち。
日本なら小学校高学年くらいのトロワジエムとシャルルーズが、プロのハンター並みの腕前なのは、どういうことなんだ?
「あら凄い。肛門を狙って命中させるなんて、シャルは弓の才能あるわね」
エネフィーユが褒めているが、オッサンはツッコミを入れたい心境になった。
狩猟知識がある人ならお分かりだろうが、獲物の尻の穴に弾丸を撃ち込むのは達人レベルのマタギの技だ。
毛皮を傷つけずに狩る最善の方法ではあるが、そんな簡単にできるもんじゃない。
それと同じことを小学生くらいの女の子が弓矢でやってのけるなんて、誰も思うまい。
この兄妹は、世間一般的なお子様たちとは絶対違う。
オッサンはそう確信したのだった。




