ep142:鶏(プル)が鳴いたら急げ
ウォルクリスの実家では、五羽の鶏が飼育されている。
毎日新鮮な卵を提供してくれる素晴らしい鶏たちだが、少々困った性格をしていた。
「コケーッ! コッコッコ」
「鶏が鳴いてる!」
「急げ!」
朝ごはんの準備をしていると、鶏舎からけたたましい鳴き声が聞こえる。
エリチエル、エネフィーユ、僕は、瞬時に身体強化をかけた。
五人の子供たちは、一斉に駆け出して鶏舎へ向かう。
「ケェェェ~」
「待て!」
「駄目っ!」
「食うな!」
鶏舎の扉を開けると、生んだばかりの卵めがけて嘴を振り下ろそうとする鶏たちがいた。
身体強化がかかっている三人は一気に距離を詰めて、卵を奪取する。
まだ温かい卵は、無傷だった。
「させるか! ……痛っ!」
ギリギリで卵を死守したのは、トロワジエムだ。
彼はまだ身体強化が使えない。
必死で卵を庇って手をのばしたので、嘴の一撃を食らって流血している。
幸い、卵は無傷だった。
「ふぇぇ……卵こわれちゃったぁ……」
残念ながら間に合わなかったのは、一番幼いシャルルーズだった。
白色レグホンのメスみたいな鶏が、砕けた卵を更につついている。
よく見ると、卵の殻も黄身も白身も、体内に戻すかのように食べていた。
この卵は無精卵であり、抱卵しても孵らないことを鶏たちは知っている。
生む際にけたたましく鳴くのは、「早く来なきゃ食っちまうぞ」という警告だ。
鳴いてしばらくして人間が取りにこなければ、自分で食べてしまう。
この鶏の卵を手に入れられるか否かは、行動の素早さ次第だった。
「シャル泣かないで、あたしのをあげるから」
エネフィーユが妹の頭を撫でて慰めている。
一方、エリチエルは鶏舎の道具置き場から救急箱に似た木箱を持ってきて、トロワジエムの傷の手当を始めた。
「う、それしみるからいらない」
「ダメダメ、つけなきゃ傷が酷くなるぞ」
木箱から取り出された薬瓶を見て、トロワジエムが尻込みする。
ウォルクリスの記憶によれば、この家にある傷薬はどれもしみるらしい。
「そうだ、リシュ領で治癒魔法を習ったよ。トロワの怪我を治してあげる」
「魔法は、しみない?」
「うん。スーッと痛みが消えていくよ」
「じゃあ、おねがい」
僕も何かしてあげられるかなぁと考えて、魔法を使うことを思いついた。
しみないと聞いて、トロワジエムが恐る恐る片手を差し出す。
僕は傷口に手をかざして、魔法を起動した。
光属性魔法:治療する光
魔法が起動した直後、トロワジエムもエリチエルも目を丸くして驚いている。
ベルさんから教わったこの魔法は、驚くほど一瞬で傷を治す。
この魔法の起動言語はエルフ語だけど、音声にする必要は無く、心の中で呟くだけで発動する。
「お、おい、これってまさか、エルフの魔法じゃないか?」
「うん、リシュ領にいるハーフエルフのベルさんに習ったよ」
「習ったって……それ、魔力消費が多いから、子供には使えない筈だぞ?」
起動言語は音声にしてないが、博識な兄にはエルフ語魔法だと分かるらしい。
魔力、二人分あるとか言えないし、さてどうしよう?
「え、そうなの? でも何故か使えるよ」
結局、スッとぼけてごまかした。




