ep144:唐揚げ作り
うさぎ(ラパン)狩りを終えて帰宅した後。
「このお肉で【カラアゲ】を作ってもいい?」
僕は家族に提案してみた。
イリキーヤ様の加護もちだということは、既にウォルクリスが話している。
今まで作ったことがない料理を出しても、怪しまれることは無いだろう。
「カラアゲってなぁに?」
「お肉や魚とかに粉をまぶして揚げる料理だよ」
最初に聞いてきたのは、末っ子のシャルルーズだった。
彼女は帰省初日にウォルクリスが作ったプリンが気に入り、しょっちゅうおねだりしてくる。
「フリッターとは違うの?」
「フリッターよりも薄い衣になるよ」
次に聞いてきたのは、母マテルニテだ。
彼女が作る料理は優しい味ながら出汁が利いていて、旨味や風味がしっかり感じられる。
ウォルクリスの料理の本家なだけあって、完成度は母の方が高かった。
「なになに? イリキーヤ様が授けたレシピ? あたしにも教えてよ」
「いいよ。じゃあ手伝ってもらいながら教えるよ」
レシピを知りたがるのは、姉のエネフィーユだ。
彼女は兄弟の中で最も母の手伝いをしてきた子なので、料理の腕はかなり良い。
射手として村一番と評価される一方で、意外と家庭的な女の子でもあった。
一方……
「イリキーヤ様のレシピか。見学してもいいか?」
「なにか手伝おうか?」
「味見くらいは手伝うよ」
「あなたたちは居間で大人しく待ってなさい」
父カシェルパセ、兄エリチエル、弟トロワジエムの三人は、母に居間へ追いやられてしまった。
スゴスゴと立ち去る背中に哀愁が漂っている。
ウォルクリスの記憶によれば、彼等はダークマター職人のようだ。
農村暮らしでも、必ずしも料理上手になるとは限らない。
彼等には料理ができるまで大人しく座っててもらおう。
「じゃあ、始めるよ」
僕はうさぎ肉を唐揚げ肉サイズに切り分けて、マジックバッグに保管していた粉末醤油もどき(ル・サン・ドゥ・ボニート)、生姜、大蒜を取り出した。
調理手袋になる白スライム(アンデュイ)の体液も出して、自分と手伝い人たちの手を覆う。
片栗粉は【ジャガイモの澱粉】と呼ばれ、ジャガイモを生産するこの家には自家製が常備されている。
「まずは下味付けだよ」
調理用の木桶に、肉と調味料を入れて揉み込む。
生姜と大蒜のすりおろしは生活魔法でできるけど、ここではおろし器を使用しておこう。
せっかくなので四つに分けて、四人がかりで下味付け作業をした。
しっかり味をつけるなら二時間くらいおきたいところだけど、今回は三十分くらいの漬け込みにしよう。
「そろそろいいかな。粉をまぶして、なじませながら油を温めよう。揚げ油の温度はフリッターと同じだよ」
揚げ油は、自家製の向日葵油を使う。
油温計などなくても、木製トングの先を水で湿らせて、油に入れてシュワシュワ泡が出ればちょうどいい温度だ。
油の温度調節は、フリッター作りで慣れている母にお任せした。
「揚げ方はフリッターと似てるから、そんなに難しくはないかな?」
「そうね。応用できると思うわ」
母と妹、僕と姉に分かれて、二つの中華鍋を使って揚げていく。
特に失敗することもなく、美味しい唐揚げが完成した。
片栗粉を使っているので、サクサクした衣に仕上がっている。
「おいしそーっ!」
「父さんたちが混ざったら、こうはいかなかったわ」
「どうしてウォル以外の男どもは料理を焦がすのかしら?」
無邪気に唐揚げの出来を喜ぶ妹の横で、母と姉が苦笑しながら言う。
男ども……アウラウダたちは料理上手だから、ここの男子限定かもしれない。
「おおっ、それがカラアゲか」
「いい匂い」
「俺、テリヤキ好きだけど、これも好き!」
居間でソワソワしながら待っていた父・兄・弟の三人は、山盛りの唐揚げに目を輝かせる。
テーブルの上に大皿盛りで置いて、それぞれに取り皿を配ったら、あとはみんな夢中でパクつき始めた。
想定内ではあるけれど、かなり多めに作ったのに、お皿は空っぽになった。
特に食べ盛りのトロワジエムなどは、もっと食べたそうな顔で空っぽの皿を眺めていたくらいだ。
またうさぎ狩りをしたら、唐揚げリクエストされる予感しかない。
母たちが作り方を覚えたから、僕が王都へ行った後でも作ってもらえるだろうね。




