ep11:ベルさんのお願い
朝稽古の後。
ハーフエルフの美女が稽古場を訪れた。
先輩たちに惜しまれながら領主の専属料理人になったベルさんだ。
男だらけの稽古場に現れた彼女は、皆の注目を浴びながら、まっすぐに僕の前まで歩いてくる。
「ウォルくん」
「ベルさん、どうしたんですか?」
小柄なベルさんが、大きくて睫毛が長い緑の瞳で、僕をじっと見上げてくる。
稽古場にいる騎士と騎士見習い一同の視線が、僕たちに集まった。
「付き合って!」
「?!」
ベルさんは白くて細い両手で僕のマメだらけの両手を持ち、真剣な表情で言う。
周囲がどよめく中、僕はビックリして固まった。
何? どうしてこうなった?
困惑していると、ベルさんは大輪の花が咲くような綺麗な笑みを浮かべた。
僕を含めた一同が魅了され、一斉に赤面する。
「……買い物」
直後、テヘッと悪戯っぽく笑いながらベルさんは言う。
僕を含めた一同は、ガクッと脱力してズッコケそうになった。
「だめかな?」
再び、ベルさんが上目遣いで見つめてくる。
こういう人を「あざとかわいい」と言うのかもしれない。
「……あ~ウォル、付き合ってやれ。……買い物」
「ありがとアルマン。じゃあ行こっか、ウォルくん」
僕が答えに困っていると、団長のアルマンさんが苦笑しながら言った。
ベルさんは団長に微笑むと、僕と手を繋いで歩き出した。
よく見れば、ベルさんはショルダーバッグを肩から下げている。
もっと早くそれに気づいていれば、「外出に付き合って」という意味だと分かったのに。
ベルさんは皆の反応が面白くて、わざとまぎらわしい言い方した気がする。
……というか、買い物に行くだけなのに、何故手を繋ぐのだろう?
「あの、ベルさん」
「なあに? ウォルくん」
歩きながら話しかけると、ベルさんはキョトンとして振り向く。
その表情も可愛くて、内心ドキッとしてしまう。
「買い物に行くのに、どうして手を繋ぐんですか?」
「ウォルくんが、迷子にならないように繋いでるのよ」
残念ながら、手を繋ぐ理由は僕の迷子予防らしい。
彼女の心の中では、僕は男性というより子供という認識なんだろう。
ウォルクリスの年齢が12歳で未成年だから、異性として意識されないのかもしれない。
今は中の人がアラフォーのオッサンだなんて、誰も知らないし。
(……あれ?)
ベルさんに手をしっかり握られたまま歩く僕は、いつの間にか掌のマメが全て消えていることに気づいた。
「ねえ、ベルさん」
「今度はなあに?」
「僕の両手のマメ、全部消えてるんですけど」
「うん。痛そうだったから治癒魔法をかけたわ」
「治癒魔法?!」
「あら、聞いてない? 私は治癒師でもあるのよ」
「凄い……」
「ふふっ、治療が必要なときは呼んでね」
ベルさんが、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
彼女は調理師だけでなく、治癒師の才能も授かっているらしい。
領主様が手元に置きたがる理由は、二つの才能も含めて気に入っているからかもしれない。
この世界には、様々な魔法がある。
どのくらい使えるかは、魔力とセンス次第。
【僕】の知識によれば、エルフやハーフエルフは特に魔力が多く、魔法の才能に長けているらしい。
ベルさんはハーフエルフだから、魔法が得意なんだろう。




