ep125:目覚めのお茶
僕はリュンヌ様の頭の下から左腕をそーっと引き抜いて、音をたてないようにベッドから出た。
以前のラ・テール様の添い寝とは違い、美人局かと警戒することはないが。
眠れるお姫様が目を覚ますまで隣にいるなんてことは、しなかった。
「ん……ウォル、もう起きてたの?」
「はい。今、お茶をお出ししますね」
やがてリュンヌ様が目を覚ます頃、僕は目覚めのお茶に使う茶器を温めているところだった。
茶器を収納している棚から、ティーポットとカップとソーサーを出して、テーブルに置く。
火魔法と水魔法を合わせてお湯を作り、ティーポットとカップを温める。
温めた状態をマジックバッグで維持するつもりだったけど、このタイミングでリュンヌ様が目を覚ましたので、そのまま目覚めの一杯を淹れた。
「良い香り……」
「檸檬草をベースに、西洋薄荷とオレンジの皮の砂糖漬け(オランジュア)を配合しました。お好みで蜂蜜を入れてお召し上がり下さい」
僕はベッドサイドテーブルに温めたカップとソーサーを置き、蒸らし終えたお茶を注ぐ。
傍らにはシロップポットに入れた蜂蜜を添えた。
甘めの味付けが好きなリュンヌ様は、お茶には蜂蜜をスプーン一杯ほど入れて飲むのがお好みだ。
「美味しい。それに頭がスッキリするわ」
「お好みに合って良かったです」
幸せそうに微笑むリュンヌ様に、僕も微笑み返す。
いつも通りの朝の雰囲気だ。
オッサンとしては、このまま添い寝の件は触れずに流してしまいたいところなんだけど……
「昨夜はありがとう」
……そうはいかなかった!
「ウォルが傍にいてくれたから、安心して眠れたわ」
「安眠できたようで良かったです」
穏やかに微笑んで応えているが、僕の内心は穏やかではない。
お姫様が、結婚相手以外の男性をベッドに入れちゃ駄目でしょ。
清楚で可憐な少女が、恋人でもない男と一緒に寝るのはよくない。
変な噂が立って、リュンヌ様がお嫁にいけなくなったら、オッサンは悲しい。
できればこういうことは、昨夜だけで勘弁してほしい。
寧ろ昨夜のことは忘れて頂いて、無かったことにしてほしいくらいだ。
さて、どうしよう?
口頭で駄目ですとか言って、納得する相手ではないことはよく知っている。
実際眠れないから頼んだのだろうし。
睡眠不足は健康によくないから、解決してあげたい。
何か安眠グッズを用意した方が良さそうだ。
「姫様が安心して眠れるように、なにか良い物がないか探してきますね」
「まあ、それなら私も一緒に行くわ」
「では、陛下の許可をもらいに行きましょうか」
出かけると言えばリュンヌ様が同行したがるのは、もはやお約束だ。
僕はリュンヌ様をエスコートして、陛下の執務室へ向かった。




