ep126:陛下が甘いわけ
フルール城の中では、僕がリュンヌ様をエスコートして歩く姿は、もはや見慣れたものとなっている。
後宮の廊下を歩いていると、すれ違う使用人たちはスッと壁際に寄って頭を下げた。
「お父様、リュンヌです」
「入りなさい」
リュンヌ様が扉越しに呼びかけると、すぐに返事があった。
陛下の護衛たちが扉を開ける。
執務室の中には、陛下がいつものように机に向かい、書類に目を通す姿があった。
「安眠用品ならエウェル殿の得意分野だ」
……えーと、まだ何も言ってませんが……。
僕たちが何か言う前に、陛下は落ち着いた口調で言う。
何を話しに来たのか、全部分かっているようだ。
相変わらず情報収集が早くて詳しい。
「ウォルは既知の中だろう? 頼んでみればよいのではないか?」
「はい」
「エルフの森には、ウォルが望めばリュンヌも連れて行けるだろう」
……もはや僕たちが出かけることは確定しているらしい。
報告とか許可とかいう会話じゃない。
もはやお出かけ前提で行き先をオススメされてしまった。
っていうか陛下、その情報の早さなら添い寝の件も知ってるよね。
リュンヌ様の想いには、とっくに気づいているだろう。
ウォルクリスは姉妹に添い寝する感覚でいたから、何も間違いは起こしてないけど、放置するの?
変な噂になる前に、忠告しなくていいのかな?
陛下はどう思っているかは言ってこないし、話題にも一切出してこない。
世間の一般的なお父さんなら、娘と使用人が添い寝したなんて知ったら遠ざけようとする筈だが。
陛下はその件について何も言わず、何もしない構えのようだ。
僕も藪をつついて蛇を出すようなことはしない主義なので、ここでは話題に出さないことにしよう。
「リュンヌ」
ふと、陛下のまなざしに温かみが増す。
娘を慈しむ、優しい父親の目だ。
「望みがあれば、遠慮なく言いなさい。国が傾くようなことでなければ許可してあげよう」
「お父様、ありがとうございます!」
陛下とリュンヌ様の会話を、僕は黙して聞いていた。
リュンヌ様の望みを叶えてあげようとする陛下の言葉には、娘を甘やかすというよりは、辛い思いをさせてしまった娘を幸せにしてやりたいという気持ちが感じられる。
リュンヌ様はアレルギーだと分かってもらえないまま、瘦せ衰えるほど苦しい日々を送っていたから。
元気でお転婆な今の姿は、陛下にとっては喜ばしいことなんだろう。
少し甘いのは、しょうがないか。
「行ってきます!」
僕の左腕に細腕を添えたまま、愛され第二王女様は無邪気な笑顔で執務室を出た。




