sideウォルクリス01
目が覚めたら、身体に凄い違和感があった。
起き上がろうとすると、ギシギシ軋む。
まるで錆びた甲冑を着ているみたいに動きづらい。
手の痛みもいつもと違う。
いつもなら掌のマメが潰れたところがズキズキ痛むのに。
今は皮膚じゃなくて指の関節が強張って鈍く痛む。
ふと手を見ると、いつもの自分の手じゃない。
父さんの手みたいに大きくて、ガサガサしていて血管や皺が目立つ手になっていた。
「なにこれっ?!」
驚いて思わず叫んだ途端、背後の壁からドンッという音が聞こえた。
隣の部屋にいる誰かが、壁を蹴ったような音だ。
(え? 何? どうなってるの?)
ビクッとして心の中で呟くと、自分のものじゃない誰かの記憶が流れ込んでくる。
この身体の持ち主の名前は、鷹野翔太郎。
アラフォーって呼ばれる年齢で、今は42歳。
僕の父さんくらいの歳だ。
若い頃は、弓や格闘技を習っていたらしい。
お仕事の「警備員」は、「警備会社」というのに所属して派遣先を選んで働くという、僕の世界の冒険者と警備兵を合わせたみたいな仕事内容だ。
今日は仕事が休みの日で、買い物に行く予定なのか。
(なんでこんなことになってるのか分からないけど、街に行ってみよう)
僕は翔太郎の記憶を頼りに、服を着替えて財布と鍵を持って外に出た。
翔太郎はいつも土曜日に食糧を買いに行くらしい。
彼がいつも行く「スーパー」に向かって歩いていたら、前方から誰かが凄い勢いで走ってきた。
知らないお兄さんが、小さな鞄を抱えて僕の横を走り抜けていく。
「泥棒! 誰か捕まえて!」
それを追いかけているっぽい、お姉さんの叫び声が聞こえる。
何が起きているか、すぐに分かった。
鞄を抱えて逃げていく人は、他人の物を盗む悪い奴だ。
僕は全力でダッシュして、逃げる奴を追いかけた。
いつもの僕の身体と違って、動かしづらいのがもどかしい。
でも気合を入れて、全速力で走る。
射程内に入ったところで、僕は力強く地面を蹴って前方に跳び、盗人の背中を肘で突くように体当たりした。
「ぐえっ!」
細くて小柄な男は、変な声を上げてうつ伏せに倒れた。
逃げないようにその背中に全体重をかけて踏みつけていると、近くの店から出てきたお兄さんが駆け寄り、「ガムテープ」で盗人の両手両足をグルグル巻きに縛り上げた。
そこへ、息を切らしながらお姉さんが走ってくる。
その人が鞄の持ち主だなと思ったから、僕は話しかけてみた。
「はいこれ。お姉さんの鞄でしょ?」
「あ、ありがとうございます! これを盗られたら、明日から生活できなくなるところでした」
お姉さんは少し事情を話しながら、ペコリと頭を下げる。
翔太郎の記憶が、今日は給料日だから銀行でお金をおろした直後に盗まれたんだろうって予想していた。
「あ、二人とも少しここで待っててもらえますか?」
「いいよ」
「警察が来るまで犯人を見張っておきますよ」
お姉さんは何か思いついたように、僕たちに声をかけて近くの店へと走っていく。
その間に「警察」が来て、僕が取り押さえていた盗人を「パトカー」に乗せた。
「商店街の方から通報を受けて来ました。逮捕の御協力ありがとうございます」
警察のオジサンが話しているところで、さっきのお姉さんが戻ってきた。
お姉さんは果物を盛った籠を両手にブラ下げている。
「あの、これ、お礼です。貰って下さい」
「え、いいんですか?」
「そんな気を遣わなくてもいいんですよ」
お姉さんは、僕たちに籠を手渡して言う。
何か貰うつもりでやったわけじゃないけれど、せっかく買ってきてくれたので、僕たちはそれぞれ受け取った。
翔太郎の記憶に従って買い物をするつもりだったけど。
たくさんの人に注目されるのが恥ずかしくて、警察に事情を説明した後は「コンビニ」で弁当を買って帰った。
貰った果物はいろいろ盛り合わせられていて、僕の知っている果物に似たものもあれば、知らないものもある。
この黄色くて長い果物は「バナナ」といって、皮が簡単に剥けて生で食べられるらしい。
ダイニングテーブルに籠を置いた僕は、バナナをもいで食べてみた。
「甘くて美味しい!」
初めて食べるバナナは、僕が森で採って食べる果実よりもずっと甘くて酸味がほとんど無くて美味しかった。
二本食べたら、お腹が結構膨れる。
買ってきた弁当は「唐揚げ弁当」というもので、これも美味しい。
僕は満足して、あとは「テレビ」を見たり、本を読んだりして過ごし、浴室でシャワーを浴びてパジャマに着替えてベッドに横になった。




